理想のコミュニティー その作り方

仮設住宅に始まり市街地、中山間地、そして情報化と一関のコミュニティーを取材した。
いずれも共通していたことは、本気でまちを、地域を、集落を愛する強力なリーダーが中心となって、今後の道筋や課題解決に向けた方策までも考えていたことだ。

そもそもまちは、人と人とのつながりによって生まれたコミュニティーである。
人あってのまちであり、経済、産業、文化なのである。
自然との関わりを尊重するまち、人々の心がしっかり結ばれたまちこそ、ひいては災害に強いコミュニティー、少子高齢化に対応できるコミュニティー、地域間競争に負けないコミュニティーを形成していくのだと思う。

京津畑の「食の文化祭」は、さながらB-1グランプリの農村版。
なぜ、千人もの人が集まるのかが不思議だった。
答えは祭りの魅力以上に集落の「本質」にあった。
雨の中、駐車場係をしていたのは中高生。
次から次へと来る人に「こんにちは」と頭を下げて笑顔で迎える。
帰りには「ありがとうございました」とまた頭を下げる。
中高生と言えば難しい年頃である。
だが、それが京津畑の日常なのである。 

30年前、京津畑に嫁いだやまあい工房の伊東靖子さんは集落の小中高生全員を知っている。
「よその子もわが子と同じようにしかる」関係だと笑う。
京津畑には人を受け入れる「土壌」がある。
人をいたわり、思いやる「愛情」がある。
心と心を通わせる「人情」がある。
規模は小さいが度量は大きい。
これが、理想のコミュニティーの正体だ。

愛情や人情にふれた記憶はいくつになっても心の中から消えないものだ。
京津畑の人たちが、古里に誇りを持って生きている意味がよくわかる。

佐藤幸生さん
藤沢地域第24区自治会防災リーダー 33歳 藤沢町徳田佐藤幸生さん

05年4月、自治会に自主防災組織を設置した。
以来、「訓練なくして組織は機能しない」をモットーに、避難訓練、救助訓練や炊き出し訓練などの各種訓練とこれらを総合的に実践する災害想定訓練を繰り返し実施してきた。

東日本大震災では、直後に全世帯の安否を確かめ、全員の安全を確保した。
自治会内の被害状況を独自に調査して「被害状況マップ」を作成した。
大きな被害を受けた気仙沼市や南三陸町に出向いて支援活動を行った。

自主防災組織は組織することが目的ではない。
大事なことは災害時に、それが確実に機能するかどうかだ。
一刻を争う事態では、誰がどこで、何をやっているかなど調べている時間などない。
日頃から隣近所で互いの家や家族のことを把握しておくことが重要だ。
まずは最小のコミュニティーである家庭、次に隣近所、そして自治会と、身近なところから信頼関係を築いていくことが大事だ。
「あの家には、誰が住んでいて、何をやっていて」など、互いを知り、おせっかいをやける関係でなければ尊い命は守れないと思う。

自主防災活動が活発な自治会は、コミュニティ-がきちんとできている。
言い換えれば、何をやってもまとまりがあるということだ。

畠中良之さん
中心市街地ゾーニング検討委員会委員長 56歳 山目町

畠中良之さん単に機能分担することがゾーニングではない。
そこに住む市民が、自分たちのゾーンに対して役割意識を持ち、自らが動くことが本来の姿だと思う。

ゾーニングを通して市は「住民起点から住みよい地域をつくる」意志を示した。
市民からすれば否応なしにゾーニングされるわけだから、積極的にまちづくりに参加して、自分たちが「わくわくするような楽しい地域」をつくればいいと思う。
そのためには、自分たちが住むゾーンの特性を理解して、その役割を果たすことに喜びを見い出せるような取り組みが大事だ。

検討委員会では「ゾーンというコミュニティーに、その役割にふさわしい事業や活動を行うための予算とその執行権がほしい」と提言してきた。

若い世代で地域を盛り上げる活動をする人たちが出てくれば、コミュニティーは活発になるし、中心市街地の賑わいを取り戻すこともできると思う。
人材育成なども含め、行政には全面的な支援をしてほしい。
中東北の拠点都市を目指す一関市。
中でもその中核を担う一ノ関駅周辺の地域コミュニティー再生は急務だ。
これからのまちづくりは、私たち市民がもっと主体的に関わって、市民と行政との協働で進めていかなければならないと思う。

菊池建さん
大東地域京津畑自治会会長 79歳 大東町中川菊池建さん

周囲を山々に囲まれた京津畑は、いわば陸の孤島。
しかも、高齢化率は高く、子供は少ない。
ともすれば孤立してしまう集落だ。
何もやるにも、まとまりや団結力が必要で、それが強い自治会をつくったのだと思う。

「食の文化祭」は手作りの祭り。
集落の人たちが心を込めて作った品々を持ち寄り、よそから来た人を迎える「京津畑のおもてなしの心」を体現した祭りだ。
それが口コミやマスコミで広がって年々来場者が増え、気が付けば千人の大イベントになっていた。

地域の連帯感は強い、何をやるにも一緒だ。
文化祭は中学生や高校生もスタッフとして協力してくれる。
特に誰かが何かを教えたわけではないが、あいさつとか、思いやりとか、日常の中で自然に学び、身に付いている。
礼儀正しい子供たちからやさしいお年寄りまで、みんなが顔見知りで、みんなが仲良しだからできることなのだと思う。

京津畑は、小さな集落というより、大きな家族という方がふさわしい。
ここには互いを思いやり、支え合ったり、助け合ったりする「結い」の心がある。
「団結力」「助け合い」「おもてなし」、これが元気で快適な京津畑をつくる3つの柱だ。

村上耕一さん
一関コミュニティFM株式会社代表取締役社長 40歳 萩荘

村上耕一さん災害時の情報提供を兼ね備えたコミュニティFMは、各方面から注目を浴びている。
市民の尊い命に関わることなので、「聞けない」状況は許されない。
情報発信だけでなく、クリアに受信できるようにすることも自分たちの仕事だ。
聞きづらい場所などがあれば、すぐに対応していきたい。

全世帯に配布されるラジオはmadein 一関。既存の放送枠にとらわれず、一関のスタイルにあった放送で皆さんに愛着を感じてもらえるよう頑張りたい。
「同じラジオで同じ番組を聴く」ことは地域の一体感を醸成し、市全体を一つのコミュニティーに発展させるきっかけにもなる。
私たちは、震災の被災体験を未来に生かしていかなければならない。
乾電池さえあれば情報を得られるラジオは、災害時にも機能する。
24時間、必要な情報をいつでも発信できる体制を目指す。

放送にはCMも入る。
一関の「内需拡大」に貢献できるコミュニティFMを目指し、地域経済の発展にも一役買いたい。
目指すは、リスナーである市民の皆さんと協働で作り上げる双方向のラジオ。
リスナーからどんどん情報が寄せられるコミュニティFMを目指し、皆さんと一緒に他に誇れる素晴らしいコミュニティーをつくっていきたい。

いちのせきの広報誌「I-style」1月1日号