医療現場の実情を知り 正しい理解で行動につなぐ

かかりつけ医を持つ、コンビニ受診の抑制、生活習慣病の予防―
一人一人の行動が地域医療を良くも悪くもする
まずは知ることが第一歩だ
医療は限りある資源
効果的な活用を

医療は、診療を通じて健康を提供するサービスであり、そのサービスを確保することは医療を提供する側の務めである。

しかし、医療を取り巻く環境は厳しい。
患者への説明時間の確保、医療安全対策の推進、救急対応の増加、作成書類の増加など、勤務医1人当たりの業務量は年々増加しているが、医師の確保が追いつかない。

また、年間の救急車の出場件数は過去3年増加傾向にある。
11年度は6639件(うち不搬送件数641件)で初めて6000件を超えた。
傷病程度別(※)では中等症と軽症が全体の83.2%を占めている(グラフ)。
軽症の症例でも安易に救急車を要請するタクシー代わりのような利用が問題視されている。

医療資源の効率的な活用を進めるためには、各医療機関の役割分担を明確にし、福祉・介護を含めた地域連携により地域の医療を確保する体制が必要だ。
それぞれの特色を生かしていかなければいけない。
医療は限りある資源だ。
サービスの受け手である住民がそれを理解しなければ地域の医療を守ることはできない。
一人一人がそれぞれの役割や機能を理解し、症状に応じた医療機関を受診することが求められる。
また、医師の過酷な勤務状況などを認識することも大事だ。

※傷病の区別
【死亡】初診時において死亡が確認されたもの。
【重症】傷病の程度が3週間以上の入院を必要とするもの。
【中等症】傷病の程度が入院を必要とするもので重症に至らないもの。
【軽症】傷病の程度が入院加療を必要としないもの

【グラフ】11年度における救急搬送の傷病程度別搬送人員

時間外診療の増加で
勤務状況は過酷に

県立磐井病院は基幹病院として入院や手術を要する症例に対する二次救急医療の機能を持っています。

急病者に対して救急・時間外診療も行っています。
一日当たりの救急外来夜間受診者数の平均は09年度22.7人、10年度23.7 人、11年度25.6人と年々増加傾向にあります。
夜間に診療するのは管理当直の医師です。
入院施設を持つ病院では、必ず医師が常駐しなければならないと医療法で定められています。
管理当直は、病院内で発生した急な患者の容態変化や緊急性を要する病態・事態などに対応するための宿直です。

しかし、現状は管理当直の医師が時間外診療の対応に追われています。
日中の診療を終えた後の管理当直を合わせた勤務は通常28 時間。
急診などに追われると32 時間の連続勤務になることも少なくありません。
神経を研ぎ澄ませた医療、心を癒やす医療を提供しなければいけない医師にとっては、とても過酷な状況です。

住民の皆さんに必要なのは医療資源を理解することです。
かかりつけ医を持ち、休診日や診察時間など診療態勢を把握してください。
緊急の場合を除いては、診療時間内に受診しましょう。

時間外利用者の多くは、自ら判断、行動できない子供と高齢者です。
仕事から帰った家族が気付いて連れてくることが多いためです。
平日18時から20時までは、小児・成人夜間救急当番医、休日9時から17時までは休日当番医を積極的に利用してください。
病状によっては、他の適切な病院を指示することもあります。
事前に電話で連絡してから受診してください。

病院で若い医師に診察されたことはありませんか。
その時はぜひ声を掛けてあげてください。
聴診器が冷たくないように少し温めてから当ててくれた。
そんな時は、「聴診器の当て方がうまいですね」など感想を言ってあげてください。
医師を志す人は社会的責任感が強い人が多いです。
やりがいがある場所で働きたいと思う人が多く、ここで働きたいという気持ちが医師の定着につながります。
医師が働きたいと思う環境づくりをするのは市民の皆さん一人一人なのです。

須田志優医師
岩手県立磐井病院 麻酔科長兼中央手術科長
須田志優医師

円滑な医療のために
病院の特性を知る

高齢化率が高まった現代は、医療機関だけではサポートしきれない時代を迎えています。
住民も健康に関する意識を持つ必要があります。
地域医療を守るのは住民です。
かかりつけ医を持ち、行政が行う健康講座や健康診断を利用して、日頃から健康に注意して暮らしましょう。
気になることがあれば気軽にかかりつけ医に相談してください。
病院にかかる時は、それぞれの医療機関の役割を十分に理解しておく必要があります。

一般開業医で入院施設を持つところはほとんどありません。
重症化して入院しなければいけない時、受け入れ先の病院が満床で空きベッドが少ないのが悩みの種です。

また、長期入院がなかなかできず、3カ月を目途に退院させざるを得ない病院側の事情があります。
急性期を脱して退院できる人で、在宅での暮らしが難しく、介護施設を利用したくても探すのに時間がかかってしまいます。

急性期病院、慢性期病院、かかりつけ医の病院は、それぞれに役割があります。
急性期病院は、重症患者を受け入れる必要があり、ベッドが空いていないと支障をきたします。
そのため、急性期をしのいだら転院が必要になります。
これは、それぞれの病院の特性を生かすための手段です。
医療を円滑に行うために、この流れをぜひ理解してください。

医師や看護師不足が課題として挙げられる中、市内で在宅当番、夜間救急を担う開業医の平均年齢は57歳。
世代交代に時間がかかったり、後継者不足だったり、新規開業が少なかったりする問題もあります。

医師は、地域の特性、言葉、郷土の理解、その土地に居ついて地域になじむ努力が必要です。
住民は、医師に長く根付いてもらうためにどうすればいいのかを考え、医師を育てるつもりで接しなければいけません。
感謝の言葉も忘れずに伝えてあげましょう。
互いの気持ちになって理解し合い、信頼関係をつくっていくことが大事です。

救急車の適正利用も必要です。
気軽に呼んでタクシー代わりに利用する人がいます。
救急車で行けば早く診療してもらえると思っている人もいるようですが、救急外来では傷病の程度によって優先順位が変わります。
必要以上に待たされる場合も考えられます。
程度に合った医療機関を選択しましょう。

子供の病気に関しては、「夜間こども救急相談電話」で対応方法を相談してください。
子供の熱発は必ず起こります。
熱を出した時にどう対処すべきかを健康講座やかかりつけ医に相談しておくことも必要です。
昼間子供の世話をする人と親との間で連絡を取り合い、症状をしっかり把握することが大事です。
いつ頃からどんな様子か、情報不備のまま受診すると、適切な診療ができません。
子供の健康には親が責任を持ってください。

開業医は経営者として、複合的なことを考えなければいけない苦労もあります。
個人事業主のため、代替えのきかない立場にあります。
勤務医を経て開業医になっています。
両方の立場や苦労が分かるからこそ、互いに連携しながら医療を提供しています。

県内2番目の面積を誇る一関市の医療圏は広範です。
一関市医師会会員数は170人程度ですが、市街地と遠隔地では、対医師の数にバラつきがあります。
訪問診療を十分に応えることが難しい現状です。
訪問診療を専門とする医師を確保できれば変わるかもしれませんね。

小野寺威夫医師
一関市医師会会長
小野寺内科循環器科院長
小野寺威夫医師

夜間こども救急相談電話

受け付けは19時~23時(年中無休)。
問い合わせ
tel019-605-9000またはtel#8000

広報いちのせき「I-style」7月1日号