多くの人の日常を奪った東日本大震災。
悲しみと恐怖による心の傷は深い。
真の復興のために欠かせないもの。それは笑顔。
みんなが元気を取り戻すまで、一人一人に笑顔が戻るその瞬間まで、私たちにできる支援をしていこう。
心寄り添って。

震災がもたらした
「こころのダメージ」

自然災害や人的災害の後にさまざまな心理的反応が生じることは、多くの人が認識しつつある。
にもかかわらず、「自分は大丈夫」「そんなことにはならない」などと考えてはいないだろうか。
災害後、心に傷を負うことは他人事ではない。
 
東日本大震災後、被災地から遠く離れた地域でも、うつ病の悪化や急性ストレス障害などが報告されている。
その要因は「生命の危機」「悲惨な体験」「家族や友人の死」「家財の喪失」「災害後の生活の変化」「将来への不安」「現実生活上のストレスの増大」などだ。
 
こうした心理的反応は、自然によくなることが多いが、大規模な災害では「うつ病」「アルコール依存症」「心的外傷後ストレス障害」(PTSD)などの精神疾患を発症する人も少なくない。
放っておけば、立ち直りが遅れるばかりでなく、自殺など取り返しのつかない最悪の事態になることも考えられる。
 
市健康づくり課の鈴木久仁子課長補佐は「復興に心のケア・サポートは欠かせない。
被災者の状態に応じて適切なケアを提供していくことが大事」と話している。

千葉大と共同で
「こころの健康」を調査

市は、今年2月から3月まで、大地震を経験した市民(無作為抽出2400人※旧市町村ごと300人ずつ)を対象に「こころの健康調査」を実施した。
調査は、岩手県精神保健センターから支援要請を受けた国立千葉大学との共同調査で、同大と当市が協働で支援活動を展開。
「家屋の被害状況」「うつと不安」「被災によるトラウマ」などについてアンケート調査した(回答者数902人)。
 
その結果、▼「家屋の被害状況」は(1)一部損壊…51%(2)被害なし…40%(グラフ1)。
▼「うつと不安のリスク」は(1)正常レベル…48%(2)注意レベル…23%(3)警報レベル…16%-だった(グラフ2)。
▼「被災によるトラウマのリスク」は(1)低リスクの人…79%(2)高リスクの人…13%-などとなっている(グラフ3)。
回答者の半数以上は家屋被害を受けており、「うつと不安」の約4割が注意レベル以上。
「トラウマ」に悩まされている人は全体の1割を超えた。
被害の有無や被害規模の大小によって症状に格差は見られるが、多くの人が何らかの不安を抱えていることは明らかだ。
 
新津富央(にいつとみお)千葉大大学院特任助教は「サポートやケアを必要とする人は、私たちの身近にいます。
リスク段階を量りながら被災者への支援方法を考え、行動しなければなりません」と、被災者へ寄り添うことの大切さを強調する。

グラフ1 

グラフ2

グラフ

一人一人が正しい知識と
適切な行動を

地域住民への心理教育も「災害時のこころのケア」として重要だ。
「被災者にどのような心理的反応が起きるのか」「その反応はどう変化していくのか」「変化する反応に周囲はどう対処すればいいのか」など、正しい知識を学び、適切な行動で対処することが求められる。

特に伝えなければならないことは、「災害後に生じる心理的反応は『異常な状況に対する正常な反応』で、誰にでも起こる自然な反応」であり、「メンタルヘルス上の援助が必要な人を見つけ出して援助に導く」「精神的問題に関して一般の人々に知識や情報を提供する」「精神的な問題が生じた人の差別化や偏見を防ぐ」ことが大切だ。
これらは災害時だけでなく、日頃から行われるべきことである。
この「当たり前」を地域、行政、専門機関が連携しながら日常化していくことが最も重要なのである。
 
高岡昂太(たかおかこうた)千葉大大学院特任助教は「まずは、安全・安心・安眠が確保されていることが大前提。
よりよい避難生活が確保され、被災状況や今後の見通しなどが正しく情報提供されなければ、こころのケアに力を入れても平穏な心は取り戻せません」と表情を引き締める。

保健推進活動を通じながら、ケア・サポートしていきたい

 
菅原純子さん
一関市保健推進協議会
室根地域保健推進員
菅原純子さん

東日本大震災で住居をやむなく移された人たちのために、心を寄り添える場所や機会が必要だと感じます。
被災者のこころの動きも人それぞれ。
地域、行政や関係団体などが協力し合って支援していくことが大切だと思います。
保健推進活動を通じながら、コミュニティーづくりなど、できることからお手伝いしていきたいです。


新津富央特任助教㊨と高岡昂太 高岡先生 新津先生
4月27日「被災者家庭訪問従事者ワークショップ」で講演する千葉大大学院医学研究院 子どものこころの発達研究センターの新津富央特任助教㊨と高岡昂太特任助教
(テーマ:「よりよい一関市被災者家庭訪問におけるこころのケアを目指して」)

保健師さんたち2  保健師さんたち1
両特任助教の講演を真剣なまなざしで聴講し、ワークショップで議論し合う家庭訪問の従事者の皆さん

広報いちのせき「I-Style」 平成24年8月15日号