グリーン・ツーリズムの輪を広げて、農村をピーアール。
農家の知恵を次世代に伝承し続ける。

刈り取ったばかりの新米をビニールの小袋へ詰めた。

愛情を込めて
かわいい孫に新米を届ける

収穫の秋。
緑色だった田んぼは黄金色に姿を変える。
コンバインやバインダーが盛んに活動する10月中旬、受け入れ農家は、刈り取ったばかりの新米をビニールの小袋へ詰めた。
修学旅行で訪れた生徒一人一人へ、メッセージを添えて送るのだ。

生徒たちにとって花泉は第二の古里。
受け入れ農家にとって生徒たちは外孫だ。
愛情をたっぷり注いで作ったコメだからこそ、「かわいい孫に食べてもらいたい」「苦労して田植えをした、花泉の思い出を忘れないでほしい」――。
さまざまな思いが詰まった新米が生徒たちの元へ届けられた。

高齢農業世帯の増加
受け入れ農家の確保が課題

現在、一関市内でグリーン・ツーリズム事業に対応した登録農家は約90軒。
その約4割を花泉地域が占めている。

受け入れに興味があっても、他人を家の中に入れて生活を共にするということに抵抗を感じる人が多い。
また、いくら普段通りの生活のまま受け入れると言っても、やはり家族の協力なくしては実現できない。
以前は登録していたものの、高齢のため農業自体が難しくなってきたり、家族に要介護者がいたりして、受け入れができなくなった農家も少なくないのが現状だ。

いちのせきニューツーリズム協議会は、農家民泊の他に、体験学習プログラムを設け、各地域の特色を生かした農林業体験や文化体験など、日帰りや個人で体験したいというニーズにも応えたいとしている。
それぞれの農家でできることから始めてほしいと、登録を呼びかけている。

体験料による副収入が入るだけでなく、農家の生きがいづくりにも期待できるグリーン・ツーリズム事業。
各地域の受け入れ農家の確保を課題として、今後、千厩、室根、藤沢の各地域の受け入れ農家の実態を調査しながら、2013年度には150軒まで拡大させたいとしている。

農業を通して日本のファンに
海外から訪問団も

本市は、本年度、日本国際協力センター(JICE)が主催する震災復興事業、アジア大洋州地域及び北米地域との青少年交流「キズナ強化プロジェクト」の一環で、海外の青少年に農業体験や交流を通して、日本のファンになってもらうことを目的に受け入れを行っている。
9月末までにアメリカ合衆国、中華人民共和国、台湾から高校生ら349人が訪問。
9月17日から2日間滞在した台湾の訪問団は、花泉、千厩、東山、川崎の各地域で、はっとづくりやリンゴの木のせん定などを体験した。

12月には南アジア地域協力連合(SAARC)の8カ国から約80人の高校生が訪問を予定。
本市の農業は各国の次世代を担う青少年に刺激を与えている。
9月末までにアメリカ合衆国、中華人民共和国、台湾から高校生ら349人が訪問

経験を知識に
次世代へ農業の魅力を伝える

市内の約3割の家庭が農業を営む一関市。
農業の知恵を次の世代に伝承する機会でもあるグリーン・ツーリズム事業。
農家が代々培ってきた知識と知恵は古里の宝だ。

農業体験を通して子供たちに生命や自然環境に対する意識、食への関心、人や自然への愛情を芽生えさせる手伝いを広めていこうではないか。

都会と田舎の信頼関係が長年の交流を生み出す

昨年、放射能の影響を懸念した諏訪中PTAから東北への修学旅行が反対されたようです。
目に見えない恐怖から、子どもを守ろうとする保護者と花泉に送り出したい先生方は、何度も話し合いを重ねてくれました。
その結果、収穫シーズンの10月に来てくれました。
先生方が生徒たちを連れて来てくれたときは感激しましたね。
1度も途切れさせることなく今年で10回目の受け入れができたことをうれしく思います。

私たちは受け入れだけではなく、都市部の文化祭などに参加し、「花泉物産展」を開いています。
その際は、諏訪中の先生方が応援に駆け付けてくれます。
今年は、花泉の夏まつりにも参加してくれました。
学校との信頼関係が構築されている証拠ですね。
交流とおもてなしは同意です。
つながりを持った一校を大事にするのが花泉のこだわり。
縁がある限り、継続させたいです。

観光地を巡る修学旅行とは一味違った体験がここではできます。
現在、市内で修学旅行生を受け入れているのは花泉地域だけです。
受け入れ農家が増えれば、他の学校生徒も受け入れることができます。
子供たちに非日常を経験してもらいながら、各地域にある魅力を体験してもらいませんか。
多彩な体験のプログラムを設け、一年を通して受け入れられるようになればいいと思っています。
後藤定幸さん 
後藤定幸さん
いちのせきニューツーリズム協議会会長、花泉町グリーン・ツーリズム推進協議会会長を務め、これまで多くの生徒を受け入れてきた。
花泉町油島在住。
5人家族。
64歳

八十八の手間を掛け、今年もとれた、古里の味。

八十八の手間を掛け、今年もとれた、古里の味。
高橋博継さん・佳子さん
高橋博継さん(68)・佳子さん(65)花泉町永井

花泉町グリーン・ツーリズム推進協議会が発足する前から永井地区で生徒の受け入れをしてきました。
我が家では6町歩の田んぼと2反歩のネギなどを栽培しています。
今年は、諏訪中・花泉中の生徒、東京農大の学生が来ました。
生徒たちには、その時期にある農作業を手伝ってもらっています。
だんだん受け入れ農家の確保が難しくなっているようです。
今年で夫婦生活45年。
これからも仲良く農業を続けたいです。

広報いちのせき「I-style」11月1日号