非常→非日常

2つの大きな災害で浮き彫りになったことは、助かるためのスキルだけでは足りないということ。
つまり、助かった後、今度は生き延びるためのスキルが必要になるということだ。

被害が大きければ大きいほど避難者は増える。
長期戦になる。水、食料、物資の備蓄、避難所の確保と運営、医療やケアの充足など、次から次へと課題が押し寄せてくる。

これまでの避難や救助に重点を置いた訓練に加え、避難所生活とその支援など、災害発生後の対応に重点を置いた「備え」が重要になってくる。
日常と異なる避難所生活は「非日常」であり、何もかもが「不便」になる。
食料や物資が不足すれば「不満」が募り、停電や断水が続けば「不安」になる。
2、3日なら我慢できることも、これが長期戦になれば、耐え難いものになってくる。
どうやって「不」を取り除くかがカギになる。

非日常→日常

1日も早く日常を取り戻すために大事なことは、二次災害など新たな災害を起こさないことだ。
自然の猛威は止められないが、二次災害は「備え」があれば防ぐことができる。
想定外を想定内にするためにも「減災」は最も重要な災害発生時の活動であるといえる。

まずは、「人任せにしない」ことだ。消防や行政に頼るだけでなく、市民一人一人が現実をきちんと理解して、協力し合うこと。
みんなの知恵と力を結集し、心を一つにして、支え合い、励まし合い、助け合える仕組みづくりが急務である。

防災の第一歩は、コミュニティーの再生だ。
日頃から隣近所で、互いの家や家族のことを把握しておくことが重要だ。
まずは、最小のコミュニティーである家庭、次に隣近所、そして自治会と、身近なところから信頼関係を築いていくことが大事だ。
心を一つに前に進むことが「不便」「不満」「不安」の「不」を解消することにつながることは言うまでもない。

消防防災力を培うために演習、訓練は欠かせない

文化財防火デーに伴う市の「文化財防火訓練」は1月26、27の両日、市内各地で行われた。
このうち室根地域の同訓練は27日、同町折壁字八幡沖地内の南流神社付近で行われ、歴史的建造物などを災害から守る意識を高めた。
 
訓練は、同神社付近から出た火が強風で山林へ延焼したことを想定。
午前8時30分の出火通報により同地域本部長は周辺建物、施設への延焼拡大を予想して消防団各隊に出場を指令。
団員らは、降り積もった深雪をものともせず、果敢に防御訓練を展開。
それぞれの役割に徹しながら臨機応変に作業をこなすなど、協力し合いながら訓練に臨んでいた。
 
室根第1分団の渡邉博久分団長(63)は「どんな現場や状況にも対応できる消防力を備えなければならない」と訓練の必要性を説き、「確かな知識と技術が必要。機械器具の点検、整備も怠らず、万一に備えたい」と表情を引き締める。
 
災害時の冷静な行動と的確な判断は、日ごろの訓練があってこそできる。

市消防団室根第1分団 渡邉博久分団長

渡邉博久分団長
室根第1分団管内は昨年、無火災でした。
本年も警鐘警戒の実施や分団の防火活動に励み、無火災継続を目指します。
消防団は新しい団員の力を必要としています。
入団はいつでも歓迎します。

1火災現場に出場する消防車両2ホース延長する消防団員3火点に向けて放水する消防団員
1_火災現場に出場する消防車両
2_ホース延長する消防団員
3_火点に向けて放水する消防団員

最先端の救急医療資器材を積載
待ったなしで救命最前線へ

一関西消防署 田村町分遣所に高規格救急自動車配備

新型の「高規格救急自動車」を導入した市は1月25日、一関西消防署田村町分遣所に配備した。
これは、01年に配備した旧車両の更新。
 
高規格救急車は、救急救命士が行う特定行為(輸液、気道確保)に必要な資器材を積載した救急車で、人工呼吸器、AED(半自動体外式除細動器)、輸液ポンプなどの資器材、消防本部や医療機関との連絡に使う衛星電話などの通信機器が機能的に配備されている。
これらを医師の指示のもと、救急救命士が使用して心肺機能停止状態の傷病者に特定行為を行う。
 
車両はトヨタハイエース。
車内で立ったままの作業が多いため、屋根部分をかさ上げして十分なスペースを確保。
また、ストレッチャーの固定部には防振装置がついており、傷病者に苦痛を与えない配慮がされている。
赤色灯・ライトなどにはLED を使用。
車体左右にもLEDの作業灯を備え、夜間時の隊員の活動や傷病者の安全確保を図っている。

1高規格救急自動車と一関西消防署救急隊員4上空からの視認性を高めるため補助警告灯を装備し、分遣所名も記したルーフ
2AEDのほか心電図、脈拍、血中酸素濃度や血圧などを測定する監視装置なども搭載されている3キャビン内部を後方から臨む
1_高規格救急自動車と一関西消防署救急隊員
2_AEDのほか心電図、脈拍、血中酸素濃度や血圧などを測定する監視装置なども搭載されている
3_キャビン内部を後方から臨む
4_上空からの視認性を高めるため補助警告灯を装備し、分遣所名も記したルーフ

守られるから「守る」へ―
広がる自主防災の輪、救命の輪

他人を救おうとする思いに満ちた社会が自分を救う。
他人を助ける尊い心(人間愛)が応急手当の原点。

震災や風水害などで、同時に複数の災害が起きたり、傷病者が発生したりしたときは、平常時のように消防車や救急車がすぐに来てくれるとは限らない。
自主防災や自主救護が不可欠である。

東日本大震災では、近所や集落の人と助け合うことの大切さが浮き彫りになり、あらためて自主防災組織の必要性がクローズアップされた。
尊い生命や大切な財産を自分たちで守るための仕組みと助け合い、支え合う環境づくりが強く求められている。

傷病者の命を救い、できるだけ後遺症なく社会復帰させるために大事なことは素早い応急手当。
バイスタンダー(近くに居合わせた人)が迅速で適切な手当を行うことが救命のカギを握ると言っても過言ではない。
自主防災組織をはじめとする地域、団体、職場、学校などが救急救命講習会を実施して、一人でも多くの人が自信と勇気を持って応急救護できる日常をつくることが重要だ。
小学校、中学校、高校、大学から社会人まで、生涯教育としての一貫した救急救命講習が市全域に広がっていくことが、救命のまちづくりにつながり、地域の絆や災害対応能力の向上にもつながっていく。

「救急車の到着を待つ」(運命)から「自ら手当てする」(使命)への意識改革こそ、救命率向上の原点。
一人一人の意識が、一つ一つの行動がつながって大切な命は救われる。
消防行政の取り組みと共に、市民による「自助」、「共助」の取り組みが不可欠だ。

災害や事故は、いつ起こるかわからない。
どこで起こるかわからない。
「訓練」の日常化は、非常を防ぎ、非日常を乗り越える有効な手段。
災害に強いまちづくりを進める一関に不可欠なプロセスだ。

5初期消火訓練をする関が丘5民区自主防災会の会員たち
6祉専門学校一関校の学生らの指導で、心肺蘇生を学ぶ一関学院高の生徒たち7祉専門学校一関校の学生らの指導で、心肺蘇生を学ぶ一関学院高の生徒たち
8イオンスーパーセンター一関店と国際医療福祉専門学校一関校が主催する救命講習会9イオンスーパーセンター一関店と国際医療福祉専門学校一関校が主催する救命講習会
5_初期消火訓練をする関が丘5民区自主防災会の会員たち(昨年10月28日)
6.7_国際医療福祉専門学校一関校の学生らの指導で、心肺蘇生を学ぶ一関学院高の生徒たち(昨年7月24日)
8.9_イオンスーパーセンター一関店と国際医療福祉専門学校一関校が主催する救命講習会では多くの買い物客らが講習を受けた(1月20日、同店内にて)。2月以降も毎月1回開かれる

広報いちのせき「I-Style」 平成25年2月15日号