欧州合同原子核研究所(CERN)を視察

ジュネーブ市内のオーベルジュで記念撮影する視察団

勝部修市長は、県国際リニアコライダー推進協議会(元持勝利会長)のメンバーらと4月10日から15日までの日程で、スイス・ジュネーブ郊外にある欧州合同原子核研究所(CERN=セルン)を視察した。
視察団は、官民一体となって本県の北上山地(北上高地)への誘致実現に向け、世界へ熱意をアピールするとともに、外国人研究者を受け入れるための住環境の整備などを学んだ。視察施設「Microcosm(ミクロコスモ)」内に表示されているセルンのロゴマーク

次世代加速器・国際リニアコライダー(ILC)誘致実現のために

 

県国際リニアコライダー推進協議会(元もともちかつとし持勝利会長)は4月10日から15日までの日程でスイス・ジュネーブ郊外にある欧州合同原子核研究所(CERN=セルン)を視察した。
元持会長をはじめ、勝部修市長ら35人が視察団としてスイス、フランスなどを訪問。
次世代加速器・国際リニアコライダー(ILC)の北上山地(北上高地)誘致実現のため、施設見学や現地日本人研究者との情報交換などを行った。

視察は、セルンの研究者の生活環境を知ることで、ILCの誘致に向けた今後の施策立案に役立てること、東北の取り組みをアピールすることが狙い。
上野善晴(うえのよしはる)副知事、谷藤裕明(たにふじひろあき)盛岡市長、小沢昌記(おざわまさき)奥州市長ら自治体関係者と県商工会議所連合会のメンバーなどが官民一体の視察を行った。
一行は13日までの滞在中、セルンの要人やILC計画の責任者リン・エバンス氏ら有識者と会談したほか、ILCを核としたセルンの研修者が多く居住するフランス・フェルネーボルテール市を見学した。

陽子と陽子の衝突現象をとらえる「ATLAS測定器」を見学する視察団
陽子と陽子の衝突現象をとらえる「ATLAS測定器」を見学する視察団

各国の研究者たちが研究しやすい環境づくりを

視察団は11日、セルンで研究を続けている高エネルギー加速器研究機構の徳宿克夫(とくしゅくかつお)教授ら日本人研究者からセルンでの実験・研究に関する説明を受け、意見交換した。
上野副知事は「誘致する上で評価項目を把握し、ILCを東日本大震災復興の原動力にしたい」と力を込めた。
勝部市長は「科学技術は日本が国際貢献できる数少ない分野」と強調し、「研究者の意向を踏まえたまちづくりを進めたい」と抱負を述べた。その後、地下100メートルにある一周約27キロの円形大型ハドロン衝突型加速器(LHC)、粒子同士の衝突の様子を測定する「アトラス実験施設」を見学した。

12日は、ILC計画の責任者リン・エバンス氏らと意見交換をした。同氏は「計画実現へ日本のリーダーシップを期待している」と述べ、地域の受け入れ態勢の重要性を強調した。
これに対し、上野副知事が候補地である一関市と奥州市にまたがる北上山地(北上高地)、交通インフラなどの計画について説明。計画実現へ向け体制整備に取り組むと訴えた。

エバンス氏はセルンのLHCの後継となるILCの必要性を強調。「世界最先端の研究設備は研究者にとって魅力であり、それを受け入れる環境が大事」と述べ、日本政府、自治体や地域住民による計画への支援に期待感を表した。

1CERN内の幼稚園 2globe(グローブ 丸い建造物:科学展示場)とジュネーブ市内を走るトラム(路面電車)
  1. CERN内の幼稚園
  2. globe(グローブ 丸い建造物:科学展示場)とジュネーブ市内を走るトラム(路面電車)CERN同盟国の国旗
世界に開かれた信頼されるまちづくりを

勝部市長は、県職員時代に訪れた18年前との変化なども確認、「宿泊施設は増え、研究施設も当時より充実している一方で、メンテナンス関連施設など以前のままの施設もあり、変化が両極端」と指摘。
「セルンは来年で設置60年。この間に大きなプロジェクトを二つ実施してきた。研究が長く続くとすれば、周辺の環境整備もそのスパンに合わせて考える必要があると感じた」と、北上山地(北上高地)へのILC誘致実現後の周辺の環境整備に理解を深めた。

また、「ILCは単なる実験施設にとどまるものではない――」と、ILCの受け入れについて「(ILCの)社会的意義をもっと国全体で理解しなければ」と語り、ものづくり大国日本を再生する絶好の機会と強調する。

地域との関わりでは、世界と地方を融合させた世界で通用する生活基盤のモデル化を模索。
多様な文化との交流を促進し、岩手から世界の文化を発信したり、若者に夢と希望を与える「挑戦する国・地域」であることなどをアピールしたりすることで「日本は
世界の信頼を得ることができ、国民は誇りを持てるようになる」と前を向く。

国内では北上山地(北上高地)のほか、九州・脊振(せふり)山地が建設候補地に挙がっており、7月頃には一本化される見通しだ。
議が技術的、経済的な評価を6月末までに取りまとめ、それを受け国内候補地が一本化される。
結論が早く出ることを願っているし、こちらしかないと考えている」と北上山地(北上高地)への誘致実現にあらためて期待を示した。

北上山地(北上高地)へのILC誘致は、いよいよクライマックスを迎える。それは、真の国際都市を目指し、世界に開かれた信頼されるまちづくりの始まりでもある。

国際リニアコライダー計画とは

ILCは、「International Linear Collider」の略称で全長30 kmを超える直線の地下トンネルの中に設置される線形加速器で、トンネルの中央で電子と陽電子を衝突させる実験装置。

この装置で行う実験により、ビッグバン(宇宙を誕生の瞬間)の状態を再現させ、宇宙創成の謎、時間と空間の謎、質量の謎の解明などにつながることが期待されている。(リニアは「直線」、コライダーは「衝突加速器」の意味)

広報いちのせき「I-Style」 平成25年5月15日号