首都圏15カ所に設置されたパンフレットラック。

古里を丸ごと売り込む 地産外商の可能性

地域で生産したものをその土地で消費する地産地消に対し、外で商いをするのが「地産外商」だ。

地域を飛び越え、首都圏など大消費地に一関市の食材や特産品をPRするだけでなく、首都圏で暮らす古里出身者に「ふるさと応援隊」的な役割を担ってもらい、多くの人に一関の魅力や価値を発信してもらうこともねらいだ。

第1弾は情報発信。昨年末から首都圏のコンビニエンスストアなどに一関の物産・観光などPR用パンフレットラックを設置してもらい、古里の情報を発信してきた。
現在東京都内を中心に15店舗が協力店となり、ネットワークが構築されている。そのつながりを生かして企画したのが今回の第2弾。六本木にある格之進R店の協力を得て、一関産の食材を使った料理を提供した。

広大な大地を有する一関市は、雄大な自然を背景に、食味ランキング特A米「ひとめぼれ」、東北屈指の生産量を誇る「ナス」、美しい霜降りと豊かな風味が特徴の「いわて南牛」、岩手県乾椎茸品評会で30年連続優勝に輝いた「乾しいたけ」など、数多くの優れた食材がある。
しかし、知名度は必ずしも高いとはいえず、効果的な情報発信が課題だった。

食品流通を取り巻く環境は、輸入農産物の国際化、流通の多様化、産地間競争の激化などにより年々厳しさを増しており、「作れば売れる」時代から「売り込む」時代へと変わっている。

「うまいもん! まるごと いちのせきの日」の初回は大盛況。確かな手応えをつかんだ。
今後、5月下旬は大東地域、7月は花泉地域と隔月で市内各地域の食材を提供する計画だ。
 

大都市圏の消費者からすれば、地方の特色ある食や産品を手軽に楽しむ機会でもある。一関ファンが増えれば、交流人口はもとより定住人口の拡大にもつながる可能性がある。

こだわりの6次産業から生まれた信頼

千葉祐士さん

千葉祐士さん いわて門崎丑格之進代表取締役社長

わが家は、祖父の時代から牛を出荷していました。
東京のフィルムメーカーに勤めていた時、「農家は原料メーカー。自分で育てた牛を提供できたらおもしろい」と思い、この道へ。
兄が育てた牛を私が提供する6次産業化を実現しました。

「牛一頭を丸ごと消費する」が格之進のモットー。売り上げの9割がコース料理やお任せ料理です。手間と経費を掛けて育てた牛は安全で高品質。
安さでは他にかないませんが、品質には絶対の自信を持っています。

「うまいもん! まるごと いちのせきの日」は好評でした。六本木店は、毎月このようなイベントを開催して安全・安心を伝え、おいしさを知ってもらっています。

母が亡くなったとき、人口四千人の川崎町で千人もの方が来てくれました。母のように、多くの人に必要とされる生き方をしたいと思いました。

一番の財産は人です。応援してくださる皆さんがいたからこそ、今があると感謝しています。
リッツカールトンやパークハイアットなど一流ホテルとの取り引きも、当店を信頼するお客さまの口コミから始まりました。
小さな店ですが、いろいろな業界の方々からご用命いただいています。

一関には人の心を充電させる力があります。そんな生命力あふれる大地で生産された食は、人と自然とが生み出した資産。市が進める地産外商は大きな可能性を秘めています。

一関の食が東京で必要とされたり、世界から注目されたりすることは、私たちの古里が認められることです。私も、食を通じて一関の魅力を広めることに貢献していきたいと思っています。

工業の発展を目指して一関市と交流

左:菅野英昭さん 右:鍵谷敏博さん

左:菅野英昭さん 多摩高度化事業協同組合まちだテクノパーク事務局長
右:鍵谷敏博さん 多摩高度化事業協同組合まちだテクノパーク理事長

「まちだテクノパーク」は世界的にもトップクラスの技術を持つ研究開発型の異業種企業18 社が公的助成を活用し、町田市に集積した企業団地です。
その一つ多摩スプリングの社長が一関市出身で川崎町には東北工場があります。東日本大震災の際、義援金100万円を送ったのがきっかけで一関市との交流が始まりました。
 

数千人が参加する「アレサふれあいまつり」には一関市からも参加していただき農産物などを販売しています。安全で品質が良いので、それを目当てに来るお客さまも多く、その恩返しとして何かできないかと思っていました。
そんな矢先、岩渕敏郎農林部政策推進監からパンフレットラック設置の相談を受け、まつりを主催する商店会長に話したらすぐに話がまとまって、町田市内のコンビエンスストアに首都圏第1号のラック設置が決まりました。
 

ものづくりの拠点は、近い将来、中央から地方へ移るのではないかと思っています。
国際リニアコライダーの国内候補地に挙げられている一関市には工業団地はもちろん高専や工業高校もあります。産学官が連携して地場産業を振興し、東北の工業拠点になってほしいです。
私たちも、農工連携による新しい取り組みなど、一層の発展を目指して、一関市と交流を深めていきたいと思います。

地産外商で古里自体を売り込もう

佐藤弘征さん

佐藤弘征さん 骨寺村荘園米研究会会長 骨寺村荘園カボチャ研究会会長

これまで生産者は、「地産地消」に取り組んできました。
でも、地元で生産したものを地元で消費することは、ある意味当たり前のことであり、これを外へ発信して知名度を上げていくことがブランドになれるかどうかの分かれ目だと思っていました。

そんな矢先、勝部市長が「地産外商」を掲げ、動き出しました。「これだ」と、賛同しました。

今回、格之進さんの協力で、「うまいもん! まるごと いちのせきの日」を開催し、東京のど真ん中から一関の食材を発信できたことは、本当に意義があります。
特にも南部一郎カボチャや骨寺村荘園米など個性の強い特産品を生産する私たちは、自信を持って前に進む力が沸いてきました。
素晴らしい舞台を提供してくれた千葉社長に、心から感謝しています。

南部一郎カボチャや骨寺村荘園米などの特産品は、後から生まれたものです。
骨寺村荘園という中世から続く貴重な遺産があってこそ、今の本寺があるのです。地産外商は、モノはもちろん古里自体を売り込むことでもあります。
骨寺村荘園の歴史や物語を誇るべき地域の文化として守り、伝え、発信していくことも私たちの使命です。

自己満足で終わらない「こだわり」の追求を

菅原亮平さん

菅原亮平さん 父親が一関出身 M'sKitchen 取締役

都内でベルギービールの店を7店経営しています。ビール醸造家などで構成される「ベルギービール騎士団」の名誉騎士に認定されました。
 

ベルギービールの特徴は品質の高さ。
発泡酒などリーズナブルな酒が脚光を浴びる中で、逆に「付加価値の高いビールは何だろう」と、たどりついたのがルギービールでした。
フルーツやハーブを使ったビールなど個性豊かな味が女性からも人気で、その広がりに可能性を感じ事業を展開しました。
 

以前、都内で「すし」と「ベルギービール」と「門崎丑」(いわて南牛)のコラボがあり、そこで千葉さんと出会いました。
互いに6次産業化を目指すなど共通点が多く、それ以来、親交を深めています。
 

一関市は父の古里。時々訪ねて、格之進にも立ち寄っています。「自分のルーツがここだ」って思うと感慨深いですね。
今年7月に開催するベルギービールの祭典「ブリュセレンシスビアフェスティバル」には一関市から「いわて蔵ビール」がゲスト参加します。
千葉さんをはじめ、一関の皆さんには、これからも、自己満足で終わらない、お客さまに理解してもらえる「こだわり」を追求してほしいです。

自分たちにできる応援を続けたい

右:吉村和富さん 左:吉村常子さん

右:吉村和富さん セブンイレブン中野大和4丁目店店長
左:吉村常子さん 和富さんの妻 一関市大東町大原出身

私の妻は一関市大東町大原の出身です。古里を離れて40年になります。

コンビニエンスストアという年中無休の商売をしていますから、なかなか帰省することはできません。それでも、岩手の風景はいつも頭の中にあるし、岩手の言葉も体に染みこんでいます。
さらに、日頃から義母が地域の皆さんのお世話になっているので、何かの形で恩返しができたらという気持ちがありました。

そんな時に、パンフレットラック設置の話を受けました。古里のために協力したい、積極的に一関をPRしたいという気持ちで店内に設置しました。
本来は、全国展開するフランチャイズのコンビニエンスストアですから、このような特別なことはできません。 

サラリーマンで転勤族だった私には、特定の古里がありません。それだけに、一関には特別な思いがあります。
たまに帰省すると、都会では経験できないような大歓迎を受けるので、一関に帰る日を楽しみにしています。子供も一関が大好きです。私たち抜きに、一人で遊びに行くほどです。

先日、妻の旧友が「一関・大東大原水かけ祭り」のDVDを送ってくれました。妻は「懐かしい街並み、知っている顔、子供の頃から聞いてきた祭りの音など、心が癒される」と話していました。
一関はいいですね。これからも、東京から私たちにできる応援を続けていきたいと思います。

広報いちのせき「I-Style」 平成25年5月15日号