バスの心地よい揺れを感じながら目的地へ。車中には、いつも古くて新しいコミュニティーが生まれている
バスの心地よい揺れを感じながら目的地へ。車中には、いつも古くて新しいコミュニティーが生まれている

2012年5月16日午前8時30分。
市役所花泉支所。
金沢2コース(中山・刈生沢(かりうざわ)コミュニティセンター前経由)に乗車しました。
水色の車体がきれいな低床バス。
車内の天井は高く、広々。
座席に着いた時の目線は、外に立った時とほぼ同じ。
車高が低いと分かります。

運転手は葛西昭吾(しょうご)さん(65)。
福祉バス時代からのベテランドライバーです。
支所を出発したバスは国道342号を北へ。
花泉の商店街をゆっくり抜け、金沢字内ノ目の三差路から主要地方道弥栄・金成線に入ります。

田植えの季節。大きな窓ガラスからはのどかな田園風景を望むことができます。
しばらく走るとバスが停車。
3人の女性が次々と乗り口のステップに足をかけます。
「皆さんいつも利用しているのですか」と聞くと、一人が「毎週よね」と話します。
阿部方子(まさこ)さん(77)は、市営バスの運行が始まってから歯医者に通うようになったそう。
「今までは家族に頼んで用足しをしていたけど、一人で街に行けるようになった。
行動範囲が広がったわ」と、気がねなく移動できることに喜びを感じています。

明るく笑顔で声を掛け合う昭吾さんと乗客。
利用者の8割はリピーターだといいます。

次々と停車し、利用者を乗せるバス。
12の停留所の他にフリー乗降区間もあり、区間内ならどこでも停車してくれます。
家の門口に出て待つ人もしばしば見られました。

今便の乗客は6人。
ほとんどが顔見知りです。

「今日はどこまで」「あそこの奥さんも乗るかしら」など、言葉が行き交う車内はにぎやかです。
運行区間が細かく分けられているため、同じ地区の人が乗車することが多く、テレビやラジオの情報とは違う、より身近な地域の話題で持ち切り。
まるで移動集会所のようです。

目的地に着くと「お先に」とあいさつを交わして下車していく姿も印象的でした。

同じ空間、同じ時間を共有するからこそ生まれるコミュニティーが市営バスにはありました。

今日はこれからどこへ行こうか。
わくわくする気持ちでバスを降りました。

市民の足が守られたまちは高齢者にやさしいまち

高齢化率が30%を超える当市の多くは中山間地域です。
交通手段のない人たちが商店街や医療機関などに出掛ける足は、古くから鉄道や民間路線バスが担ってきました。

しかし、車社会の進展でマイカーが激増。
路線バスの利用者は年々減少し、収入は加速度的に落ち込みました。
不採算を理由に民間路線バス会社が撤退すれば、自分で交通手段を確保できない沿線住民は、生活の足を失います。

このような中、過疎対策、老人福祉問題、商店街の活性化など、さまざまな観点から地域の実情にあった公共交通サービスのあり方が議論されてきました。

市営バスは、過疎化や高齢化が進む地域の公共交通機関として大きな役割を果たしています。
花泉地域は土日祝日、振替休日、年末年始を除く毎日運行されています。
利便性を考え、フリー乗降区間も設けるなど、新しい地域の足として期待は高まる一方です。
市内ではほかに大東、千厩、室根、川崎弥栄の4地域で市営バスが運行されています。
一関、東山の両地域は民間バス会社に依頼して運行しています。

住民の足が守られたまちは、高齢者にやさしい街でもあります。
出掛ける機会が多くなれば、人や社会との関わりが増えます。
市営バスの運行によって、普段なかなか会えなかった昔の友人と会えるようになったという話も少なくありません。
バスが運ぶ笑顔は、生き生き輝く暮らしが守られている証。
市営バスが生み出す古くて新しいコミュニティーにも注目です。

1市営バスを運転する(花泉タクシーの皆さん。 2バスは15に再編された路線を走る。花泉の原風景に出会う小さな旅のよう
3車内に張り出された乗車案内。乗客みんなで確認 4優先席をご利用下さいのステッカー。ここでは、全ての席が「結う先席」だ
1)市営バスを運転する(花泉タクシーの皆さん。右から菅原房義(ふさよし)さん、葛西昭吾さん、伊藤剛(たけし)さん
2)バスは15に再編された路線を走る。花泉の原風景に出会う小さな旅のよう
3)車内に張り出された乗車案内。乗客みんなで確認
4)優先席をご利用下さいのステッカー。ここでは、全ての席が「結う先席」だ

通院や買い物に便利、助かります

千葉恵子さん
千葉恵子(けいこ)さん 64 花泉町金沢 

週に一度は利用しています。
移動の足がなければ病院や買い物に行けません。
市営バスがあって助かっています。
フリー乗降区間があるのもうれしい。
一人暮らしなので、バスの中は情報交換の場にも。
バスに乗ることを楽しみにしています。

広報いちのせき「I-style」6月1日号