素材と工程の全てを自力
風合いを生かしたものづくり

1所狭しと道具が並ぶ作業場

東山町田河津の佐藤鐵治(てつじ)さん(81)は、紫雲石硯(しうんせきすずり)を手掛ける製硯師(せいけんし)。
佐藤家で製硯が始まったのは今から70年以上前。
雄勝硯の職人山本儀兵衛の息子幸治郎が晩年、鐵治さん宅で世話になりながら彫ったことがきっかけだ。
見よう見まねで始めた祖父鐵三郎さんが初代。
鐵治さんは三代目だ。

原料の紫雲石は、大船渡市から東山町夏山に走る4億年以上前の地質から産出される輝緑凝灰石。
あずき色の地に浮かび上がる紫色の斑点模様が特徴だ。
目が細かいことから墨との相性がよく、繊細な線を出すことができる。

紫雲石は、自宅から4キロほど北上した山中にある。
上土を掘って岩を掘る。
石割なたで割って目の粗さなどを確認する。
延々と続く作業に「石採りが一番大変。
掘ってみなければ(質が)わからない」と苦労をもらす。
良質な石は、掘り出したうちの2割ほどしかない。

自宅脇の作業小屋が加工場。
原石を電動カッターで切り、のみを入れる。
のみを構える表情は凛々しい。
紫雲石の自然な風合いを損なわないよう、少しずつ彫り進める。
作業場を染める赤い石かすが印象的だ。

彫った硯は、研ぎ石と水ペーパーで磨き上げ、仕上げに漆を施す。
漆かきや漆塗りも自力でこなす徹底ぶり。
こうして100%夏山産の紫雲石硯が出来上がる。

かつて、夏山には7、8人の職人がいたが、現在は鐵治さんただ一人。
肩と手にはアザやタコが絶えないが、「元気なうちは続けたい」と笑う。
彫りの技術を研究するため産地の宮城県雄勝町に通うことも。
同じものが二つとない唯一無二の作品を追及し続ける。

2鐵治さんが作った紫雲石硯。原石によって硯の形も多様 3仕上げに使う漆は自宅近くから採取。市販の物と比べ、湿度があって乾燥時間が短いため、使い勝手がいい 4作業場に置かれた研ぎ石
5彫る箇所に合わせて複数ののみを使い分ける 6紫雲石を薄く、彫る鐵治さん。職人技だ
1_所狭しと道具が並ぶ作業場
2_鐵治さんが作った紫雲石硯。原石によって硯の形も多様
3_仕上げに使う漆は自宅近くから採取。市販の物と比べ、湿度があって乾燥時間が短いため、使い勝手がいい
4_作業場に置かれた研ぎ石
5_彫る箇所に合わせて複数ののみを使い分ける
6_紫雲石を薄く、彫る鐵治さん。職人技だ
PROFILE

佐藤鐵治さん
佐藤鐵治さん

1930年東山町生まれ。教員退職後、東山町議会議員を4期務める。
祖父鐵三郎さんに習い、二十歳頃から硯作りを始めたが、本格的に取り組んだのは教員退職後から。
佐藤家製硯師の3代目。
妻、長男夫婦、孫の5人家族。東山町田河津在住。81歳

広報いちのせき「I-style」6月1日号