館蔵品

家紋散蒔絵厨子棚かもんちらしまきえずしだな

家紋散蒔絵厨子棚

画像をクリックすると拡大表示します。
 高さ80cm 幅100cm 奥行き44cm
 江戸時代


 厨子棚とは、棚の一部に両開きの扉を持つ物入れ(厨子)が組み込まれている調度品です。江戸時代の初めには、黒棚(くろだな)、書棚(しょだな)ともともに大名や公家等の婚礼道具の中心にもなって、日常用いる品々、例えば文房具、香道具、化粧道具などを置いたり、飾ったりするのに用いられました。
 この厨子棚は、一関藩主田村家に伝わっていた品です。黒漆(くろうるし)塗りの地に、竹雀(たけにすずめ)紋と丸竪三引両(まるにたてみつひきりょう)紋を金蒔絵で散らして、飾り金具にも丸竪三引両紋を表しています。黒と金のコントラストが威厳を感じさせて、文様の配し方にはリズムがあります。しかし装飾は豪奢というほどではなく、むしろシンプルな印象を受けます。
 さて、厨子を開いてみましょう。何と、扉の裏側には絵が描かれています。中層部には釣ざおを持ってタイを抱える恵比須(えびす)と、袋を背負って打出の小槌を持つ大黒天(だいこくてん)が、下層部には一対の獅子・狛犬(こまいぬ)像です。これらには漆をレリーフ上に盛り上げた高蒔絵(たかまきえ)という技法が用いられているため、立体感があります。色は金や赤金、青金を基調としながら、くちびるや舌には朱漆がのせてあって、生き生きして見えます。
 また厨子の内部は金梨子地(きんなしじ)といって黒漆塗りの上に金粉が蒔(ま)かれています。だから厨子を開けると、福の神だの魔よけの霊獣だのがひょっこり飛び出してくるように見えるのです。きっと持ち主は訪れる客人にこの仕掛けを見せて、共に楽しんだに違いありません。
 平明で生真面目そうな外観からは想像できない、心にくい演出です。

このエントリーをはてなブックマークに追加