館蔵品

吉野龍田図屏風よしのたつたずびょうぶ

吉野龍田図屏風 左隻 龍田図 吉野龍田図屏風 右隻 吉野図
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 狩野常信
 六曲一双、紙本著色
 各縦177.7cm、横380cm
 江戸時代前期


 これらの屏風(びょうぶ)は、二つそろって一つの作品です。吉野の山に桜が咲き乱れる光景を右に、紅葉が流れる龍田川は左に配置します。どちらも和歌に詠(よ)まれた名所です。枝から離れた花びらや葉がはらはらと舞い降りて川に運ばれていく様は、その場の空気や時の流れさえ感じさせるようです。
 さっぱりと見える画面ですが、構図や筆遣(づか)い、彩色の方法など、よく考えられていて、繊細に描かれています。桜は一重あり、八重あり。紅葉も真っ赤なものから輪郭だけうっすら赤みを帯びているものまでいろいろです。雪解けで水かさを増した春の川は勢いづいて渦を巻き、波立っている一方、秋の流れは静かで、ゆるやかです。美しく輝くかすみは、細かく砕いた金箔をふきつけた砂子(すなご)という技法で、豪華さを演出しています。
 二つを並べると五メートルもの幅になり、少し離れて座って見ると、とても迫力があります。それに、屏風を実際に使う場合には画面が折れ曲がりますから、遠近がされに強調されて見えます。もちろん、それを意図しての構図なのでしょう。
 作者は狩野常信(かのう つねのぶ)。彼は幕府に召し抱えられた絵師団のうちでも、最上の格式だった奥絵師(おくえし)と呼ばれるグループの一員でした。
 一関藩歴代藩主の中で、とりわけ教養が豊かだったといわれる初代・建顕(たけあき)は、絵をかくことも好きで、狩野常信から教えを受けていたという記録があります。この屏風がだれの所蔵だったかは定かではありませんが、建顕も師の作品を屋敷に飾り、楽しんでいたかもしれません。

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