館蔵品

車前草丸三引紋薄蒔絵香箪笥しゃぜんそうまるにみつひきもんすすきまきえこうだんす

車前草丸三引紋薄蒔絵香箪笥
車前草丸三引紋薄蒔絵香箪笥

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 高さ10.2cm、幅11.3cm、奥行き7.9cm
 江戸時代中期
 田村護顕氏蔵


 子どもの片手でもひょいと持ち上げられるほどの、なんともかわいらしい箪笥(たんす)です。香道で用いる品を入れる、香箪笥(こうだんす)のミニチュアです。桃の節句で雛(ひな)人形と一緒に飾られたものでしょう。
 持っていたのは、田村氏一関藩二代藩主・誠顕(のぶあき)の三女で、三代藩主・村顕の妻となった百、院号・本地院と思われます。収められていた箱の蓋裏には「本地院様より被進候(しんぜられそうろう)御伽羅(きゃら)箪笥」と付せんがあります。
 当時の教養の一つともされていた香道は、伽羅の道とも呼ばれた技芸です。作法に従って香木をたき、立ちのぼる芳香を楽しむのですが、いにしえの人が詠んだ和歌などと関連させて香りを鑑賞するため、文学的な教養も求められました。
 ここで紹介する雛飾りの香箪笥は、実際に香をたてるわけでもないでしょうに、とても精巧な作りです。総体は黒漆(くろうるし)塗りで、箪笥の天板、側面、背面と、香炉、香盆には露をのせたすすきが金銀蒔絵(まきえ)で流麗に描かれています正面の蓋にはさらに、田村家の家紋である車前草(しゃぜんそう)紋と丸竪三引両(まるにたてみつひきりょう)紋も施されています。提手の金具が天板にぶつかって傷がつかないように、鋲(びょう)がつけられていて、引き出しのつまみの座金(ざがね)は菊花形につくられています。引き出しからのぞいているのは香包み(こうづつみ)で、それぞれに銘が記されています。高さ五センチにも満たない小さな香炉の中には灰まで入っているのです。
 寸法を知らずに写真だけで見たら、本物よりずっと大きく見えるにちがいありません。それだけ精ちで、存在感があるのです。

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