せんまやひなまつり4
【発展】まつりからまちづくりへ
伝統を継承しながら新旧の融合に挑むのが千厩流。
昨年より今年、今年より来年と、進化を求めて学び合い、支え合い、つながっていく。
向上心にあふれ、ブレずに進むその姿こそ、せんまやスタイル。
夫婦石近くの空き店舗には、四日町商店街の皆さんが手作りしたひなが飾られている
せんまやスタイル
壇飾りを継承しながら、つるし飾りを取り入れたせんまやひなまつり。
蔵に広がる伝統と革新の融合は、無二の空間を創り出し、県内外から訪れる多くの人を楽しませています。
これぞ「せんまやスタイル」です。
明治、大正時代から受け継がれてきたひな壇には、10体以上の人形が飾られています。
その一つ一つに個性や役割があり、さながら家族のようです。
一方、竹ひごから赤い糸でつるされるつるし飾りは、1本の縦糸に7つのひながつるされています。
その縦糸が7列、合わせて49のひなで構成されています。
段飾りが家族なら、つるし飾りは職場や地域の姿と重ね合わせることができます。
コミュニティーは人が集い、付き合い、つながって生まれます。
付き合いが深まれば「信頼」が芽生えます。
つながりが強くなれば「絆」が生まれます。
長い間、千厩の人々の暮らしを見つめてきたおひなさまは、家族や地域の本来あるべき姿を教えてくれているような気がします。
多くの手が集まって
スタートから5年。
華麗なる草創期を築いた「せんまやひなまつり」は、伝統と革新の融合で進化を遂げ、古里千厩にこだわることで真価を生み出してきました。
そこには、「作る手」「飾る手」「支える手」「伝える手」「挑戦する手」など、たくさんの手がありました。
その手が集まりスクラムを組めば、1+1=2ではなく3にも4にもなる大きな力が生まれます。
その力が人を育て、まちをつくり、夢をかなえていったのです。
地域の俳句愛好者でつくる「萩の会」(佐藤牧子会長、会員27人)も、ひなまつりを支える大切な「手」の一つです。
会員たちが詠んだ句は短冊になって蔵や参加店舗に飾られています。
各店の様子を詠んだ短冊と飾りびなの相性もよく、「見る」楽しみに「読む」楽しみが加わりました。
「娘この裁ちて母の縫ひたる飾り雛」
「雛飾る店主の笑顔大鏡」
これは、同会の佐藤会長が千厩字構井田の理髪店「ヘアーサロンあおやぎ」の様子を詠んだものです。
佐藤会長は「娘が裁断した布を母が縫い、出来上がった飾りびなを父がつるす、とういう家族が協力しあう様子を詠みました」と語り、「せんまやひなまつりには、多くの人が関わっています。萩の会の活動がまつりを盛り上げ、まちづくりのお手伝いになればうれしいです」と古里への思いを句に込めます。
ブレない生き方
せんまやひなまつりを運営する女性たちの瞳は、子供のように輝いています。
きっと、目標のある人生、夢中になれる毎日だからでしょう。
輝く女性が増えると、家庭や地域は明るくなります。
家庭や地域が明るくなると、街に活気が生まれます。
まつりは、立派なまちづくりです。
せんまやひなまつりは、目的が明確です。
だからブレないのです。
一本筋の通った進化の仕方は、千厩の女性たちの生き方そのものです。
「寝ても覚めてもひなまつりのことばかり考えていた」と笑う洋子さん。
実行委員長として、人知れず重ねた努力があったはずです。
でも、決して苦労を口にすることはありません。
そこがまた、すてきです。
設立10年目の「萩の会」は、毎月の例会で佐藤雅彦さんを講師に句を学ぶ。
ひなまつりへは第1回から参加。
酒のくら交流施設や参加店舗などを巡って実際に見たまつりの心象を詠んでいる。
今年は約150句を詠み、50カ所に3句ずつを贈った。
写真(右)は、かつて養蚕で使われた「わらだ」を利用して飾られた作品を詠んだ佐藤牧子会長(75)。
(中央)は講師の佐藤雅彦さん(79)。
(左)は会員の昆野ミヨ子さん(77)
実行委員長に聞く
モットーはおもてなし
活気やにぎわいは
迎える人と訪れる人とが
共同で創るもの
せんまやひなまつり実行委員長
昆野洋子さん Konno Yoko
私が会長を務める「蔵サポーターの会」は、観光ガイドや酒のくら交流施設の清掃活動など、千厩のPRや観光振興を支援しています。
「酒のくら交流施設」は国指定登録有形文化財。千厩地域の中心部にあり、千厩の地域活性化に欠かせない拠点です。
冬季は人通りの少ない商店街を「大正ロマン漂う蔵を生かして、何とか以前のような活気を取り戻すことができないものだろうか」と模索し、思いついたのがひなまつりでした。
早速、仲間に声をかけ、アイデアを形にするために動きました。
大変でしたね。
当時の会場は蔵1カ所だけ。
会員自らひな壇を持ち寄って飾りました。
訪れた人に千厩のまちを見てもらいたくて、「商工会議所女性会千厩支部」や「せんまや逸品の会」と共に、各店舗での展示やスタンプラリーも始めました。
ひなまつりは、回を重ねるごとに広がりました。
3年前からは、各団体と協力して実行委員会を組織。
地域挙げてのまつりへと進化しています。
ひなまつり期間中は、県内外から訪れた親子連れなどで街並みはにぎわいます。
周りの関心も高まってきました。
まつりの開幕を大東大原水かけまつりと同じ2月11日にしたのは、相乗効果を得るためです。
地域と地域が点から線へとつながり、線から面へと広がることで一体感の醸成や広域的発展につながります。
一関市という大きな面をみんなで盛り上げていくことが重要だと考えています。
5回目を迎え、蔵には20組以上のひな壇と2,000個以上のつるし飾りが飾られています。
ひなまつりの参加店も45店舗に増え、多くのおひなさまが飾られています。
「古いものを大切にしながら、新しいものを取り入れていく」見る人を飽きさせない工夫をしています。
回を重ねるたびに「また来たい」と言ってくれるリピーターも増えています。
仮設住宅や雇用促進住宅に入居している被災地の皆さんにもひなまつりへの参加を呼びかけています。
おひなさまを見て、心を癒やしてほしいです。
まつりの期間は4週間ですが、準備を含めると1年がかりです。
ひな一つ作るのに1日以上かかるものもあります。
一針一針に願いや祈りを込めて縫う「作る喜び」、作ったひなを「飾る喜び」、飾ったひなを「眺める喜び」、眺めた人の笑顔を「見る喜び」など、たくさんの喜びが私たちの頑張る力の源です。
喜びは連鎖します。
多くの人の手によって作られるひなまつりには、携わった人の数だけ心が宿っています。
誰かに必要とされることはうれしいことです。
人はみんな、誰かの役に立ちたいと思っています。
蔵やまつりなど「まちの宝」を守る活動が人を集める力になり、商店街に活気やにぎわいが生まれると思います。
人を大切に思う気持ちや古里を愛する心が、人と人とを結び、地域と地域をつないでいます。
モットーはおもてなし。
温かい気持ちで迎え、やさしい心で接することです。
にぎわいは、迎える人と訪れる人とが共同で創り出すものです。
名所や景観も必要ですが、一番大切なのは、このまちに生きる私たちの「心」だと思います。
PROFILE
こんの・ようこ 1942年矢巾町生まれ。
05年郷土芸能や酒のくら交流施設の保全を目的に「蔵サポーターの会」を設立、初代会長に就任。
09年からせんまやひなまつり実行委員長。
下宿業を営む傍ら、千厩町観光協会副会長、一関社会福祉協議会理事、市食生活推進員団体連絡協議会千厩支部副支部長など役職多数。
01~05年旧千厩町議会議員。
女性の視点から地域活性化を模索し、東奔西走する毎日。
千厩字久保田在住。69歳
いちのせきの広報誌「I-style」3月1日号