文化とは、ここでは自ら創ること
2、紡ぐ 

子どもたちの晴れ舞台は、古里を愛する多くの人の手によって紡ぎ出される神楽や打ちばやしなどが共演する子どもたち

 

神楽や打ちばやしなどが共演する子どもたちの発表会が客席を魅了した。

少子化で出演団体こそ減っているが、「見せ方」を工夫することで質の高い舞台を創り、相変わらずの人気を維持している。

発表会は30年以上続く恒例行事。
あらためて郷土芸能の価値を実感できるもので、同時に地域文化創造・発信のあり方や新しい可能性をも示した。

旧藤沢町時代、少子高齢化が進む中山間地の魅力発信を模索する中で着目したのが文化創造活動。
その拠点として98年に藤沢町文化交流センター(現藤沢文化センター)をオープンした。
センターの中核は「縄文ホール」。
この舞台から藤沢町民劇場(現一関藤沢市民劇場)をはじめとする「藤沢ならでは」の文化が生み出されてきた。

藤沢地域の特徴は、古里へのこだわりと市民の手づくり。
今回も舞台に立つ子どもたちを裏方で支えたのは地元の子どもたちだった。

縄文ホールの企画から運営までを担うJスタッフ協議会の及川隆司会長は「ここでは文化は自分たちで創るもの。舞台は多くの人の手によって創られる。心が宿っているから生きている。そこが面白い」と語る。

客席から見守った勝部修市長は「出演者も裏方も市民。他の地域にも藤沢方式を広げていくことで、これまで以上に文化を振興できるのではないか」と可能性を探る。

華やかな衣装。躍動感あふれる舞い。

華やかな衣装。
躍動感あふれる舞い。
息のあった演奏など郷土芸能は、古里の風土が生み出した地域の誇るべき文化だ。
長い年月をかけ、古里に伝承されてきた芸能を守り、育て、次代へとつないでいくことが、現代に生きる私たちの使命でもある。

初めは見るだけでいい、聴くだけでいい。
まず触れてもらい、興味が沸いたら参加する。
こうして少しずつ裾野を広げていくことが大事ではないだろうか。

大地の恵みに感謝することから始まった神楽は、もともと農村の娯楽として多くの人に愛されてきた。
本来は、田園風景の中で楽しむものである。
それを子どもたちに伝え、舞台で披露し、恒例行事に定着させてしまうあたりが藤沢流。
いにしえから伝わる芸能の中に、未来へ通じる生命力を感じずにはいられない。
おそらく、舞い手の継承だけでなく、そこに裏方の育成があるからだろう。

正月返上で、毎晩遅くまで稽古を重ねてきたのは子どもたちだけではない。
子どもたちの晴れ舞台は、家で、地域で、子どもたちを支え続けた父母や指導者の努力なくしては語れない。

毎晩わが子の稽古に付き合い、本番を客席から見守った父親の一人は「ようやく今夜から家族そろって食卓を囲むことができる。晩酌の時間も早くなるよ」とうれしそうに笑った。

郷土芸能は、核家族化が広がり、世代間分離が進む中山間地域の「絆」再生にも大きな役割を果たしている。
誇りと活気を生み出すその取り組みこそ地域の「宝」である。

一人でも多くの後継者を育てることがこれからの仕事

伝承者
下大籠南部神楽保存会会長
高橋義男さん

高橋義男さん
2000年シドニー五輪聖火リレーイベントへ参加するため渡豪。
世界最大のスポーツイベントで古里の神楽を世界へと発信した。

神楽との出合いは少年時代。
古里宮城県気仙沼市本吉町で下大籠南部神楽の演舞を見て心を打たれた。
「かっこよかった。テレビのない時代、舞い手はスターだった」

1951年に縁あって藤沢町大籠へ。
憧れだった同保存会に入会し、「神楽三昧」の人生が始まった。
以来、今日まで60年にわたり、舞ってきた。

73年からは会長を務め、保存・継承活動に力を注ぐ毎日。
口承だった神楽の口上を3冊の冊子「南部神楽詠議本(なんぶかぐらろくぎぼん)」にまとめるなど、神楽の伝承者としても重責を果たす。
08年には(財)伝統文化活性化国民協会の地域伝統文化功労者に選ばれた。

3月で85歳。
しかし、神楽衣装に袖を通せば、背筋がすっと伸びる。

「伝統文化の神楽を守りたい。一人でも多くの後継者を育てることがこれからの仕事」

情熱は冷めない。

鉦(かね)を担当した高橋義男さん(左)
発表会で子どもたちと舞台に上がり、鉦(かね)を担当した高橋義男さん(左) 

演じる喜びがあるように支える喜びがある

裏方
Jスタッフ協議会
及川忠さん

及川忠さん
97年から3年間、旧藤沢町が実施したJスタッフ養成講座を受講。
縄文ホールのオープン時から裏方として活躍してきた。
主に照明や美術を担当、現在はJスタッフ協議会企画広報部長として地域文化の創造発信を担う。

「客席を魅了する表舞台がある一方で、もう一つのドラマが繰り広げられる舞台裏。
「光」と「音」を巧みに操り、舞台を彩る裏方は舞台裏の主役。
そのだいご味を子どもたちにも知ってほしい」と子ども郷土芸能発表会にJキッズ養成講座をタイアップさせる企画を立案。
表も裏も市民が主役の藤沢方式を「これが地域文化」と胸を張る。

仕事が終わると一目散にホールへ向かう。
毎晩遅くまで舞台づくりに打ち込む情熱と使命感は、もはや趣味やボランティアの域を超える。

「裏方は、お客さんと顔を合わせることはないが、拍手喝采を浴びた時は本当にうれしい。やってよかったと思う瞬間」とにっこり。

「演じる喜びがあれば、支える喜びもある」

根っからのボランティアだ。

照明の仕込みを指導する及川忠さん(左)
Jキッズ養成講座で受講者に照明の仕込みを指導する及川忠さん(左)

1養成講座で照明の操作を学ぶJキッズ2今年は5人の子供たちが受講
3「藤沢ばやし保存会」を紹介する近江翔君(藤沢小6年)4あいさつする勝部市長

1_養成講座で照明の操作を学ぶJキッズ
2_今年は5人の子供たちが受講。修了証を手に指導したJ スタッフと共に
3_トップを飾った「藤沢ばやし保存会」を紹介する近江翔君(藤沢小6年)
4_あいさつする勝部市長。「郷土芸能の灯を絶やさないよう伝承活動に力を入れてほしい」と述べた

広報いちのせき「I-Style」 平成25年2月1日号