一関の人たちは、

正月や年越しはもちろん、節句、彼岸やお盆など季節の区切りに、お客さまのおもてなしに、結婚式や葬式など冠婚葬祭に、事あるごとにもちを食べます。
その数は年間60日以上ともいわれ、「もち暦」が存在するほどです。

なぜ、これほどまでに、もちと深い関係にあるのでしょう。
ルーツは藩政時代にさかのぼります。
江戸時代、仙台藩は国内有数の米どころで、多い時には江戸に流通した米の約20%がこの地方のものでした。
当時、仙台藩は、毎月1日と15日にもちを神仏に供えることを推奨しており、平安息災を祈る習わしがありました。

また、米のほかにも各種農産物が豊かで、こうした地域の食文化を背景に、さまざまなもちの具が生まれました。
小豆、ごま、くるみ、あんこ、ずんだ、納豆など、その食べ方は300種以上。
土産土法のもち料理は、郷土食となって広がり、今日に伝えられてきました。

もち料理と共に受け継がれてきたのが「もち食儀礼」です。
仙台藩の武家社会の儀礼として「もち本膳」があり、それが商家へ、そして農家へと伝わりました。
礼作法は小笠原流、盛り付けや味付けは四條(しじょう)流。
祝儀にも、不祝儀にも「もち本膳」を振る舞う伝統は一関地方ならではで、市内には作法を行うためのお膳やおわん、その歴史を記した古文書なども残されています。

「もちは最高のごちそう。人生の節目には必ず食べました」と語るいわて東山歴史文化振興会長の佐藤育郎さん(65)は、一関もち食推進会議の文化部長。
もち本膳の作法の伝承活動に励んでいます。

「この世に生を受けた喜びに始まり、七五三、入学、卒業、結婚、そして人生の終局まで、もちで始まり、もちで締めくくったのです」と教えてくれます。

儀礼・作法
儀礼や作法を伴うもち食文化は地域の「宝」
組織的活動で後世へ伝えたい

佐藤育郎さん
いわて東山歴史文化振興会長
一関もち食推進会議文化部長

協働、協調、連携、助け合い、絆など、これらの言葉を一つにくるんでしまったような食が「もち」。
もちは、人と人とのつながりを象徴する食べ物です。
私たちは、この作法を伴う一関の文化を後世へ継承していかなければなりません。

学校給食は、子供たちに伝える最適な機会。
また、ホテルや結婚式場などで提供すれば、一関以外の人にも発信できます。

一方、食品の保存技術は飛躍的な進歩を遂げています。
マイナス30℃で冷却したもちは、3年後に解凍しても、つきたてと変わらない風味を保っているのです。
「伝統食を新技術で保存」、素晴らしいですね。
忙しい現代人に普及するにも好都合です。 

作法を伴う食文化は地域の「宝」です。
市内では、さまざまなイベントや伝承活動が行われています。
これからは、生産、もちつき、加工、販売、作法など、もちに関わる全て分野、全ての人たちが一つになって、組織的な活動で普及・継承していくことが大事だと思います。

佐藤育郎さん

さとう・いくろう 

1947年東山町生まれ。
08年一関市東山支所地域振興課長を最後に退職。
いわて東山歴史文化振興会長、一関もち食推進会議文化部長。
地域の伝統芸能やもち食文化の継承に貢献  

もちつきは、男女の共同作業。

男性はきねを振り、女性は臼のもちをこねます。
農家の風習として受け継がれ、四百年以上の歴史があります。

田植えが終わった後の「さなぶりもち」、稲刈りを終えた後の「刈り上げもち」など、節目節目につくことで、家庭の融和を深めたり、村の協調を図ったりしました。
毎日の労働の中で、もちつきは共通の楽しみであり、つくたびに、もちへの愛情は深まっていきました。

真柴の岩渕一美さん(66)は、もち米「こがねもち」16アールとうるち米「ひとめぼれ」110アールを栽培する稲作農家です。
農業の傍ら、もちつきの実演などを通して一関産もち米の普及拡大と「もち文化」の継承活動に取り組んでいます。

食生活が多様化し、もち米の需要が年々減っていることを危惧していた一美さんは「多くの人に、臼ときねでついた昔ながらのおいしいもちを食べてほしい」と94年、「祝い餅つき振舞隊」(岩渕一美隊長、隊員15人)を結成。
以来、慶祝行事や県内外のイベントに出向いて、「千本杵(ぎね)」でついたもちを振る舞ってきました。
これまで同隊が実演したもちつきは900回以上です。

ほかにも、体験実習や講演会などを開いて、家庭で簡単にできるもち料理を紹介するなど、もちの消費拡大に精力的です。

「昔は、どの家にも臼、きね、せいろがありました。でも、核家族化が進み、家電製品が普及した今は、もちをつく家が少なくなりました」とさみしさをにじませます。
一方で、「臼ときねでついたもちには、機械で出せない風情があり、うまさも格別」と自信をのぞかせます。

先人たちの知恵が詰まった郷土食の「もち」は、一関の風土や暮らしが生み出した食文化。
一美さんは「もちになじみのうすい子供たちや一関を訪れる人たちにも、たくさん食べてほしいです」ときねを持つ手に力を込めます。 

もちつき
もちは一関で最高のごちそう
臼ときねでついた昔ながらの味を伝えたい

岩渕一美さん
祝い餅つき振舞隊隊長

一関のもちは、原料も、味付けも、盛り付けも、ほとんどが地元産。
あんこ、ごま、くるみ、きなこ、くり、大根、おろし、納豆、ずんだ、沼えび、山菜、ふすべ、じゅうね、かぼちゃ、しょうがなど、伝統的な食べ方だけでも紹介しきれないほどあります。
まさに、一関の風土や暮らしが生み出した伝統的な郷土料理です。

家庭の食としてだけでなく、おもてなしの食として、行事、慶弔、接待などで出されているのも一関ならではの特長です。
一関で「もちをごちそうになる」ことは、最高の接待を受けることなのです。

「祝い餅つき振舞隊」は、臼ときねでついた昔の味を伝えながら「もちの里・一関」を広くPRしようと、市内はもとより県内外で積極的な活動を展開しています。

私たちのPR活動と、もち米生産活動などが一体となって「もち食」の普及を推進すれば、きっと、一関地方の農業、商業、観光などの分野に新しい活力を生み出すことができると思っています。

岩渕一美さん

いわぶち・かずみ

1947年一関市生まれ。
伝統のもち料理や新しいもち料理をさまざまな場面でたくさんの人に味わってもらおうと94年に「祝い餅つき振舞隊」を結成。
市内はもとより県内外で積極的なPR活動を展開中

先人の知恵と一関の風土が育んだ

「もち文化」は、後世に伝えたい豊かな郷土の食文化だ。
一関地方では「もち」をキーワードに、地域が一体となって多彩なもち料理を全国に発信している。
「辨慶(べんけい)の力餅大会」「日本一のもちつき大会」「祝い餅の振る舞い」「もちりんピック」「全国わんこもち大会」「中東北ご当地もちサミット」など、年間を通してユニークなイベントを開催しているほか、体験実習、儀礼や作法を学ぶ講演会や講座なども開かれており、新たなもち文化の創造にも力を入れている。
大食い自慢が競った「第6回わんこもち大会」1万3,650食を提供した「第1回中東北ご当地もちサミット2012in一関」
左_大食い自慢が競った「第6回わんこもち大会」
右_1万3,650食を提供した「第1回中東北ご当地もちサミット2012in一関」 

広報いちのせき「I-Style」 平成25年3月1日号