【特集1】「6.14」一関の今_3
明日への羅針盤 祭畤に風が吹く
訓練で備えを確認
岩手・宮城内陸地震から5年目の夏、市内では「6.14復興ウオークラリー」をはじめさまざまな取り組みが行われた。
市、平泉町、県南広域振興局一関土木センター、県建設業協会一関支部は合同で6月14日、「災害情報伝達訓練」を行った。
訓練は今年で3回目。災害時に必要な情報をすばやく収集して伝える作業を迅速に行った。
6月30日は「水防訓練」が一関水辺プラザ交流ゾーンで行われた。
水防技術と防災意識の向上を目的に毎年行われているもので、関係機関や各地域の自主防災組織が、災害への備えを確認した。
地区全体が災害遺構
NPO法人「須川の自然を考える会」(熊谷健理事長)の活動が盛んだ。
旧本寺小祭畤分校を改修した「ぶなの森まつるべ館」を拠点に環境教育に取り組んでいる。栗駒山付近の施設管理や登山道整備など、その活動は多岐にわたる。
岩手・宮城内陸地震が発生した08年以降は、災害の記憶と郷土を愛する心を後世に伝える活動も展開。
災害遺構の保全活動に力を注いでいる。市や関係機関と協力して実施する災害遺構保存事業は「6.14」の記憶を風化させない取り組みの一つ。
遺構を見学に訪れる人は年々増えており、「祭畤被災地展望の丘」や「祭畤見学通路」などの草刈りや清掃を行っている。
同会が管理する須川野営キャンプ場も5年前の地震で大きな被害を受け、復旧には5年かかった。
同キャンプ場では、ガスコンロ3台を新たに整備。テントや毛布などといっしょに、利用者に無料で貸し出している。
キャンプ場の再開は、祭畤が復旧から復興へ歩み始めた証。同会の小野寺勇さんは「お客さんの数が震災前に戻った。休日には仲間や友人で(キャンプ場を)利用する人が増えています」とうれしそうだ。
地震被害を乗り越えてきた祭畤地区は、地区全体が災害遺構と言っても過言ではない。
災害の記憶、災害への備え、自然愛護の心、人と自然との共生など、ここには、後世に引き継ぐべき大切なものがたくさんある。そして、それを伝える人がいる。
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1_「須川の自然を考える会」の活動拠点は、旧本寺小祭畤分校舎
2_管理を任されている栗駒国定公園「真湯野営場」
3_ブナ、カツラ、トチなどの原生林が特徴。樹齢100年を超える巨木も少なくない。「ここは、巨木たちが遊ぶキャンプ場」と小野寺さん
4_地震による地滑りで土砂に埋もれたキャンプ場は、多くの人の懸命の復旧で再開した
5_利用者に無料で貸し出しているガスコンロや毛布など
6/14 情報伝達訓練
教訓を生かし、緊急時に備える
「災害情報伝達訓練」は6月14日、県建設業協会一関支部事務所で行われ、市、平泉町、県南広域振興局一関土木センター、同協会一関支部などから参加した約50人が、災害時の情報伝達を確認した。
訓練は、「宮城県沖を震源とする大規模な地震が発生した」と想定し、災害時の安否確認や現場の状況把握など情報を一元管理できる「災害情報システム」を使って行われた。
一関支部が2012年に導入した同システムは、会員から送られたGPS情報付き写真などを瞬時に把握して関係機関などに速やかに伝達できることから、正確な情報共有と迅速な復旧作業につなげることが可能だ。
参加者は、安否の確認や寄せられた情報の伝達に当たっていた。
6/30 水防訓練
「災害への備え」を伝える緊迫の訓練
「一関市水防訓練」は6月30日、市内狐禅寺の一関水辺プラザ交流ゾーンで行われ、水防隊、関係機関、婦人消防協力隊、自主防災組織などから参加した約500人が、水防技術を磨き、防災意識を高めた。
今回は、「台風接近による降雨で北上川が増水し、盛岡地方気象台と国土交通岩手河川国道事務所が氾濫警戒情報を発表した」と想定。
水防隊員たちは、本番さながらに「Tマット」や「くい打ち積み土のう」など5種類の工法に取り組んだ。
会場では、市婦人消防協力隊の応急給食訓練や市消防団機動部隊の救助救出訓練なども行われたほか、自主防災組織の会員ら約180人も、真剣な面持ちで積み土のう工法を実践した。
遺構を資源に須川の価値や魅力を高めたい
須川の自然を考える会 小野寺勇さん
「須川の自然を考える会」は、ブナの伐採による生態系破壊を懸念して設立しました。
震災前は、栗駒山や山麓の施設の管理や登山道の整備など行っていました。
あの日、山が動くのを感じました。ニュースで報道される祭畤の変わり果てた姿にぼうぜんとしました。
管理する「真湯野営キャンプ場」でも地滑りが発生。すべてのテントサイトが土砂に埋もれました。
見慣れた場所だからこそ、その凄まじい光景に言葉が出ませんでした。
祭畤には樹齢百年を超えるブナやカツラの巨木が群生しています。これだけの巨木が立ち並ぶ森は、全国的にもまれ。
地震によって、山肌がむき出しになった祭畤の森を「助けたい」その一心で復興に励みました。
現在の観光客数は、震災前とほぼ同じくらいに戻りました。
変わったのは、他県の観光客が増えたこと、目的が登山や温泉から「遺構」になったことです。
祭畤見学通路の管理や旧本寺小祭畤分校舎を観光客に利用してもらったりすることも仕事になりました。
多くの人は、遺構を「負の遺産」と認識しているかもしれません。でも、私たちは「資源」として捉えています。
遺構を見た多くの人たちが、災害の記憶を伝えたり、防災への意識を高めたりするきっかけになればいいと考えています。
自然災害は、防ぐことはできませんが、「減災」はできます。
まずは、自然と向き合って共生することが大事。むやみに伐採しない、生態系を壊さないなど、必要最小限の開拓整備と森林の保全こそ、防災の第一歩だと思います。
遺構を資源に、観光振興や地域再生に結びつける取り組みこそ祭畤流。
震災を乗り越えた須川が、今まで以上に多くの人々に愛され、親しまれるよう、これからも地道な活動を続けていきます。
Profile
NPO法人須川の自然を考える会。1988年設立。
森林や環境財産の維持、自然と人間の共生を図るための活動や運動を行っている。
2000年に特定非営利活動法人に認定。03年には栗駒国定公園の管理団体1号に指定された。
広報いちのせき「I-Style」 平成25年7月15日号