震災で急浮上 コミュニティーの再構築

3.11の震災で当たり前の日常が奪われ、多くの人が家族や地域の「絆」を再認識させられた。
今、日本中で人と人とのつながりが見つめ直されている。
助け合い、支え合う真のコミュニティーとは?
その正体に迫る。

まちづくりに不可欠なコミュニティー

地域社会は英語でLocalCommunity (ローカルコミュニティー)。
コミュニティーを最初に理論的に研究した米国の社会学者マッキーバー(R. M. MacIver 1882︱1970年)は「コミュニティーは基礎的な共同生活の範囲。
その基礎標識は地域性と共同意識」と定義している。

コミュニティーは一定のエリアを対象とする「地域型」と地域を越えたつながりを基盤とする「目的型」とに分けられる。
「地域型」は市町村などの自治体や集落などで、防災、防犯、行政との連絡調整など、その役割は重要。
まちづくりを進めていく上で欠かせない。

「目的型」は市民の行動や活動などから生まれたコミュニティーで、NPO、スポーツクラブ、趣味のサークルなど多種多様。
自治区や学区などよりも広い地域を活動範囲としている。

そのほか近年は、飛躍的に広がるネット社会によって、バーチャルなコミュニティーも急増している。

震災でコミュニティーの大切さを再認識

日本漢字能力検定協会が募集した2011年「今年の漢字」に「絆」が選ばれた。

東日本大震災で、多くの人が家族や地域の「絆」について考えさせられた。
震災がきっかけで結婚を決めた「震災婚」も登場するなど、今、日本中で「絆」が見つめ直されている。
地域や集落に古くからある「結い」や「近所付き合い」もその代表例。
支え合い、助け合うコミュニティーの再生に動き出した地域や集落も少なくない。

このような中、藤沢地域では、雇用促進住宅藤沢宿舎に入居した被災者たちが自治組織「藤沢宿舎結いの会」を立ち上げた。
同宿舎には大船渡市、陸前高田市、一関市、宮城県気仙沼市、南三陸町などで被災した53世帯、125人が暮らしている。
多くは昨年4、5月に入居した。
以来、物資提供、環境整備、交流イベントへの招待などさまざまな支援を通して交流を深めてきた。

入居する被災者は7月に自治組織「班長会」を設立。
世帯状況を把握してごみ出しを徹底したり、路上駐車の一掃を図ったり、住みよい環境づくりに力を入れてきた。
また、みんなが楽しめる交流会や心を癒やす催しなども企画した。

初めはうまくコミュニケーションができなくて、ぶつかったこともある。
だが、集まるたびに付き合いが深まり、話し合うたびにつながりは強くなった。

12月8日、臨時総会を開いて自治組織の名称を「藤沢宿舎結いの会」に改称。
異なる自治体から集まった人たちは、「復興」という目標に向かって、助け合い、支え合いながらリスタートした。

「結いの会」は、地域という既存のコミュニティーを越えて誕生した仮設のコミュニティーだ。
だが、「復興」という共通の目的を掲げ、みんなで集い、付き合い、つながって、「絆」が生まれていくその姿は、既存のコミュニティーに一歩も引けをとらない真のコミュニティーと言える。
そこから学ぶべきものは少なくない。

1気仙沼市本吉町で炊き出しを行う藤沢町女性組織連絡会議の皆さん 1_ 気仙沼市本吉町で炊き出しを行う藤沢町女性組織連絡会議の皆さん/ 2_ 藤沢町へ避難してきた人たちを歌で励ます藤沢コーラスの皆さん/ 3_ 一緒に米を育て、収穫した米を復興支援米として被災者に配った徳田地区の皆さん
2藤沢町へ避難してきた人たちを歌で励ます藤沢コーラスの皆さん 3一緒に米を育て、収穫した米を復興支援米として被災者に配った徳田地区の皆さん

藤沢宿舎に入居する被災者が「復興・感謝の会」開き支援者に感謝する

藤沢宿舎班長会は10 月30日、地元住民や支援ボランティアらを招いて「復興・感謝の会」を開いた。
畠山博藤沢地域自治区長をはじめ行政、自治会、団体、ボランティアグループなどの関係者約40 人を招き、物心両面の支援に対し、感謝の思いを伝えた。

会場の集会所には、支援者への感謝の思いや入居者の歩みをまとめた資料や写真が掲示され、被災者の代表と支援者の代表が、互いに感謝の言葉やメッセージを交換した。

班長会の佐藤さき江会長(気仙沼市)は「避難所は大変だった。
少しでも穏やかな生活をしたくて藤沢に身を寄せた。
藤沢の皆さんの想像以上の支援とやさしさに胸がいっぱいになった。
本当にありがとうございます」と涙ながらに感謝し、「藤沢は第二の古里。このつながりを大切にしながら復興の歩みを進めたい」と決意を述べた。

宿舎中庭で行われた懇親会には被災者の家族も参加した。
班長会は、豚汁やおにぎりなど手作りの昼食200 食を振る舞った。
参加者は食事を囲みながら、震災で出会った縁や人と人との絆の大切さをかみしめていた。

3.11 から9カ月。
藤沢宿舎に暮らす人たちは12 月8日、自治組織「藤沢宿舎結いの会」を設立した。
同会は、震災後、さまざまな事情で古里を離れ、藤沢宿舎に移り住んだ人たちが、感謝の心を忘れず、人と人とのつながりを大切にしながら自立することを目指すコミュニティーだ。
藤沢から復興へ向け、リスタートした。

組織設立に向けて事務局として関わった前田都佐子さん(気仙沼市)は「藤沢に越してきた人の多くは、大切なものを失ったり、日常を奪われたりした人たち。震災がなければ一緒に暮らすことはなかった。それぞれ心に傷を負い、いろいろな思いはあるが、支え合って、共に前に進んでいこうという思いから『藤沢宿舎結いの会』と命名した。今、こうして一歩踏み出せたのは支えてくれた藤沢の皆さんのおかげ。皆さんに恩返しするためにも、いいコミュニティーをつくって必ず復興します」と力を込めた。

藤沢宿舎集会所で行われた「復興・感謝の会」。メッセージを述べる畠山博自治区長
5懇親会では熱々の豚汁、おにぎり、おでんなどを囲んで交流した 6壁一面に展示された感謝の思いや入居者の歩みをまとめた資料や写真
7徳田地区の皆さんが伝統芸能の「田植え踊り」を披露 4_ 藤沢宿舎集会所で行われた「復興・感謝の会」。メッセージを述べる畠山博自治区長/ 5_ 懇親会では熱々の豚汁、おにぎり、おでんなどを囲んで交流した/6_ 壁一面に展示された感謝の思いや入居者の歩みをまとめた資料や写真/ 7_ 徳田地区の皆さんが伝統芸能の「田植え踊り」を披露

INTERVIEW

佐藤さき江さん

佐藤さき江さん Sto Sakie
藤沢宿舎結いの会会長
56歳 宮城県気仙沼市出身

当初はごみ出しのルールが守られない、草刈りなどの行事に参加する人が少ない、一人暮らしのお年寄りが心配など、悩みは尽きませんでした。
そんな問題を一つ一つ解決していくために班長会をつくりました。
宿舎に届いた寄付金の活用方法もアンケートを行って決めました。
入居者が共同で使う雪かきセットを購入したほか、一部を「復興・感謝の会」の運営経費に充てました。
藤沢の皆さんの支援は私たちに前に進む勇気を与えてくれました。
ゆっくりでも、着実に前進していくことが恩返しにつながると思っています。

いちのせきの広報誌「I-style」1月1日号