囲炉裏(いろり)で愉(たの)しむとっておき囲炉裏(いろり)で愉(たの)しむとっておき

ここにしかない、ここでしか造れない、世界に一つの酒「どぶろく」。

手が掛かる分、量産はできないが、最初から最後まで目を行き届かせ、愛情を注ぎ込むことができる。
作り手の顔が見える酒、人情が香る酒は格別だ。

藤沢町藤沢字馬ノ舟にある農家民宿「観樂樓(かんらくろう)」。
里山の農家民宿でどぶろくを携え、地域を活性化しようと奔走する一人の男を追う。

お待たせしました。これが古里のどぶろくです。

豊かな土壌にたっぷりの愛情を注ぎながら、自分でいい米を育てる。
地の米、地の水で造ったこの土地ならではの地の酒がどぶろく。
大地の恵み、自然の生命力までも感じられる古里の酒だ。
原料からこだわったどぶろくは、しみじみうまい。

市内第1号のどぶろく

あんちゃんのどぶろく藤沢町で農家民宿「観かんらくろう樂樓」を営む佐藤静雄さん(68)はこのほど、自家製どぶろく「あんちゃんのどぶろく」の販売を始める。
国の「どぶろく特区」を活用した市内初の取り組みで、静雄さんは「地域活性化につながれば」と意欲を見せる。

どぶろく特区は、国が認定する構造改革特別区域。
特区内で作った米を原材料に、農家民宿などでどぶろくを造る場合、酒税法の最低製造数量基準(年間6000リットル)を免除する。
旧藤沢町は、2011年3月25日付で内閣府から認定を受けた。

静雄さんは、昨年11月に酒類製造業の営業許可を、同12月に酒類製造免許の交付を受け、民宿の敷地内にある酒工房で造り始めた。
原料は地元の水と自家栽培したひとめぼれ。
発酵期間を調整することで酸味に強弱をつけ、辛口(酸度の高い赤ラベル)、甘口(酸度の低い青ラベル)の2種類を造る。

商品名は「あんちゃんのどぶろく」。
第1号は1月11日に瓶詰めされた。
「あんちゃん」は「兄」の意味で、小さい頃から家族や地域の人たちに呼ばれてきた静雄さんの愛称だ。

瓶ラベルには、静雄さんの友人菅原恵美さん(47)=千厩町小梨=がデザインしたあんちゃんの似顔絵も入れた。

静雄さんは「まずは民宿で販売したい」と語り、将来は飲食店や宿泊施設などに卸したり、祭りやイベント会場で販売したりすることも視野に入れている。

大量生産は難しいため、当面は月約46リットル(1本720ミリリットル入り瓶約60本)ほどの製造を見込む。
アルコール度数は15~16度。価格は1本(720ミリリットル)1600円(税込み)だ。

濁酒と清酒の違いは

どぶろく(濁酒)は、時代劇の居酒屋などで、ガブリとやるあの白く濁った酒だ。
日本酒を造る過程で「もろみ」をろ過・殺菌しないことから、濁り酒(にごりざけ)とも呼ばれる。

丹精込めて育てた米を蒸し上げる。
湯で溶かした酵母を加えて発酵させる。
こうして造られたどぶろくは、ほんのり甘い豊かな風味とまろやかな口当たりが特徴だ。

明治初期には多くの稲作農家が自由に造っていたという。
現在は酒税法で厳しく規制され、許可なく造ると酒税法違反に問われる。

目指すは地域活性化

国は03年、地域経済の活性化を狙った規制緩和策として構造改革特別区域を設けた。
濁酒の製造免許に関する規制緩和もその一つで、これが通称「どぶろく特区」だ。

特区に適用される規制の特例措置は、農家民宿や飲食店を営む特定農業者による特定酒類の製造事業。
つまり、特区内でのどぶろくの製造と飲食店や民宿などでの販売が許可されたのだ。
現在までに全国110カ所がどぶろく特区に認定されている。

具体的には、民宿を経営する農家が造ったどぶろくを宿泊客に振る舞ったり、地元のレストランや観光施設で提供し
たりするなど、醸造・販売が認められている。
どぶろくを造ることで人が集い、人が集まることで地域がつながるなど、特区によって活性化した例も少なくない。

だが、▼醸造場所が特区内に限る▼民宿や飲食業もあわせて営む農業従事者でなくてはならない▼自分で作った米を原料にしなければならない―など制約も多い。

旧藤沢町が特区に認定

本市の藤沢町は昨年3月25日付で内閣府から「どぶろく特区」の認定を受けた。

どぶろくで農家民宿のもてなしの質を高め、都市と農村の交流拡大や地域活性化に結びつけることが狙いだ。

第25回特区計画で認定を受けた地域は、旧藤沢町を含む全国17カ所。
県内のどぶろく特区は全国第1号の遠野市をはじめ奥州市、平泉町など8市町あり、本市は9カ所目になる。

勝部修市長は「一関地方の特産品としてどぶろくが定着し、地域おこしのきっかけになれば」と期待を寄せる。

発酵させた米のアルコール度数を測定する佐藤静雄さん(左)と工業技術センターの中山繁喜上席専門研究員
昨年12月28日の初仕込みから8日目の1月4日、発酵させた米のアルコール度数を測定する佐藤静雄さん(左)と工業技術センターの中山繁喜上席専門研究員

古里の酒「どぶろく」 地の米、地の水で造ったこの土地ならではの地の酒がどぶろく。

(1)原料は自家栽培のひとめぼれと地元の清浄な水

原料の米は、静雄さんが自分の田んぼで丹精込めて育てたひとめぼれ。
地元の清浄な水(機械で軟水にする)でといだ米16 キロを機械で蒸し上げる。
蒸し上がったら丹念に広げ、粗熱をとる。
人肌ほどに冷ましたら麹こうじと混ぜ合わせる。
(左)は指導する工業技術センターの中山繁喜上席専門研究員。

原料は自家栽培のひとめぼれと地元の清浄な水

(2)ずんどうで2週間発酵 うまさのカギは温度管理にあり

冷ました米を麹と混ぜて、ずんどうと呼ばれるステンレス製の発酵容器に入れる。
そこに湯で溶かした酵母を加えて発酵させる。
発酵中、大事なことは温度管理。
微妙な温度差が風味に影響するという。
寒さの厳しいこの時期は、ずんどうを毛布でくるんで保温し、18℃前後で約2週間管理する。

ずんどうで2週間発酵 うまさのカギは温度管理にあり

(3)仕込みから15日目に完成 新酒59本を瓶詰めして貯蔵

ずんどうの中で醸造していたどぶろくのアルコール度数が15度以上になった1月11日、第1号のどぶろく59 本を瓶詰めし、貯蔵庫に納めた。
工房には近所に住む静雄さんの姉たちも駆けつけて協力。
ひしゃくですくった新酒を1本ずつ丁寧に瓶に注ぎ、キャップを閉めてラベルを張った。

仕込みから15日目に完成 新酒59本を瓶詰めして貯蔵

いちのせきの広報誌「I-style」2月1日号