相手の心に寄り添う

震災で多くのものを失った。
失ってその大きさを痛いほど知った。
普段忘れがちな人と人とのつながり。
お互いさまのありがたさ。

多くの尊い人命や古里の大切な財産を奪った東日本大震災。
2011年3月11日を境に、私たちの価値観は大きく変わりました。

私たちは心に深い傷を負う一方、同時に人命の尊さや思いやりの大切さに気付かされました。
普段忘れがちな家族や地域の「絆」を再認識させられました。

今、日本中で人と人とのつながりやお互いさまの関係が見直されています。
助け合い、支え合うコミュニティーづくりが加速しています。

古くから日本人は、自然を愛し、礼節を重んじてきました。
質素倹約を暮らしの基本とし、おもてなしの心、侘び寂びの心を大切にしてきました。
「おもてなし」の精神の源は、触れ合う相手を自然体で気遣い、思いやる心です。

震災で、かけがえのない命、大切な住まいや物を失った人々の悲しみや苦しみは測りしれません。
ボランティア活動や義援金に代表されるように、「被災者を助けたい」「被災地を支えたい」という人が増えていことのは、日本の心が再生されようとしている証。
日本人の価値観は大きな転換期を迎えています。

本市には、沿岸被災地から多くの人が避難しています。
このうち、藤沢町の雇用促進住宅藤沢宿舎には大船渡市、陸前高田市、宮城県気仙沼市と南三陸町などの被災者98人が入居しています。

入居者は自治組織「藤沢宿舎結いの会」(菅原精治会長)を結成し、互いに助け合い、支え合いながら暮らしています。
同会を強力に支援しているのが地元藤沢の人たち。
「困ったときはお互いさま」と被災者というより帰省した家族を迎えるように自然体で心の通った付き合いをしています。

菅原会長は「田植えをしたり、お祭りに参加したり、地元の人と同じように年中行事に参加しています。草刈りや花植えなど住宅の環境整備にも駆けつけてくれます。避難先が藤沢でよかった。藤沢は第二の古里です」と誇らしげに語ります。

避難先が藤沢でよかった。
お隣さんのようによくしてもらっています

「がんばっ田」で収穫された復興支援米45袋が「結いの会」の皆さんに手渡された
雇用促進住宅藤沢宿舎の集会所で11月18日、「がんばっ田」で収穫された復興支援米45袋が「結いの会」の皆さんに手渡された。
「食べるのがもったいないくらい」と感謝し、笑顔で受け取る「結いの会」の人たち

菅原精治さん

菅原精治さん58歳
会社員 
雇用促進住宅藤沢宿舎「藤沢宿舎結いの会」会長
宮城県気仙沼市出身


藤沢の皆さんには、野菜をいただいたり、地域行事に誘ってもらったり、本当によくしてもらっています。
入居した時からお隣さんのように接してもらっています。
地元の皆さんと一緒に田植えから稲刈りまで参加した「がんばっ田」で収穫された米を「結いの会」の全世帯にいただきました。
「一緒に汗を流して作った米は、結いの会と藤沢との絆が形になったもの」と言われ感動しました。
今度は、私たちが藤沢の人たちに感謝する行事を企画して、もてなしたいです。

農地・水・環境保全向上徳田地区活動組織代表
千葉ひろあきさん


震災復興を願って名付けた「がんばっ田」で、「結の会」の皆さんと一緒に、田植えや稲刈りを行って交流を深めました。
収穫した米は、互いの絆が形になった友情の証です。
一緒に食べてほしくて皆さんに贈りました。

岩手復興のために支えてくれる人たちに、頭を下げずにはいられませんでした

被災地に向かう警察関係車両にあいさつする千田社長と内藤印刷社員
被災地に向かう警察関係車両にあいさつする千田社長と内藤印刷社員。
思いやりにあふれた見送りに、全国から派遣された警察官や機動隊員は「ありがとうございます」と敬礼。
感謝の気持ちで応えた。

市内赤荻の内藤印刷有限会社(千田恵太郎社長、社員20人)は震災直後から、被災地に向かう警察関係車両にあいさつする活動を行いました。

沿岸被災地を支援するために全国各地から派遣された警察官や機動隊員は隣接する本市に宿営。
毎朝7時から7時30分頃にかけ、同社前を通って気仙沼市や陸前高田市などへ向かっていました。

「岩手をこんなに大勢の人たちが支えてくれている」

千田社長は、4月初めから支援が終わる10月まで、社員と一緒に目の前を通過する車両に向かって立礼。
「おはようございます」「よろしくお願いします」「ご苦労さまです」と一台一台に頭を下げました。

あいさつ活動は、雨の日も、風の日も休まず続けられ、千田社長らの気遣いに乗車する警察官も敬礼で応えました。
中には「ただ今から行ってまいります」「いつもありがとうございます」とスピーカーで応える車両もありました。

千田社長は「礼節は日本の心。被災地に生きる一人として感謝の気持ちを伝えたかっただけです。
支援活動を終えて、職場に戻った皆さんからお礼の手紙が届き、私の方が恐縮しています」と控えめに振り返ります。

「遠くの親戚より近くの他人」ということわざがあります。
災害時には、他人であっても近くにいる人が頼りになるという意味ですが、「お互いさま」の心があればこそ成り立つ関係です。

千田社長は「”想”という字は、”相”手の”心”と書きます。
相手の立場で、その心や気持ちを理解する思いやりの心がおもてなしです。
商売はもちろん、豊かな地域社会や良好なコミュニティーを築く原点だと思います」と話しています。

千田恵太郎さん
72歳
内藤印刷代表取締役社長

千田恵太郎さん
かつて、私は火災で全てを失いました。
今、こうして再生できたのは、多くの人に支えられ、励まされ、力をもらったからです。
人は「感謝」でつながっています。
「心」で結ばれています。
全国から派遣された警察官や機動隊員の皆さんは、被災地復興のために家や職場を離れて頑張ってくれました。
皆さんがいたからこそ今日があるのです。
頭を下げるということは、相手を敬い、深い感謝の気持ちを表すこと。
礼節は、昔から引き継がれている日本人の心です。

全国の警察官や機動隊員から千田社長へ寄せられたお礼の手紙
被災地での支援活動を終えて、職場に戻った全国の警察官や機動隊員から千田社長へ寄せられたお礼の手紙。
いずれも千田社長や内藤印刷社員の思いやりに対する感謝の気持ちがつづられている。

広報いちのせき「I-style」12月1日号