室根山8合目に鎮座する室根神社本宮(右)と「蛇の目の紋(◯)」の本宮法被、新宮と「菱の紋(◇)」の新宮法被 

遠い昔、この地(室根)で始まった神の勧請を再現する祭り。
人々は1300年の間、そのいにしえの祭りの形を守り続けた。
それはやがて、他に類を見ない「唯一無二」の祭りへと進化していった。

三年ぶりの室根大祭

大注連縄、お仮宮、簀垣が設置され、マツリバ造営が進む様子
大注連縄、お仮宮、簀垣が設置され、マツリバ造営が進む様子

奈良時代からその姿を今に伝える国の重要無形民俗文化財「室根神社特別大祭」。
今年の祭りは10月25-27の3日間、室根町折壁の特設会場などで行われ、前回(2010年)以来、3年ぶりの燃える祭りに、秋の大地は揺れた。

荒馬先陣や袰(ほろ)まつりの馬場巡り、町内行進など多彩な催しが繰り広げられた祭りには、県内外から大勢の人が詰め掛けた。

クライマックスは最終日。
室根山8合目の室根神社で本宮、新宮の両神輿(みこし)へ御魂(おみたま)移しが行われた後、午前4時、二つの神輿が祭り場の仮宮を目指して下り、激しい先着争いを繰り広げた。
早朝に行われる室根神社祭の「マツリバ行事」は好天に恵まれ、神をあがめる男の祭りは最高潮に達した。

1本宮、新宮両神輿を安着させる「お仮宮」を造る神役 2マツリバ正面に張る「大注連縄」を作る神役

1_本宮、新宮両神輿を安着させる「お仮宮」を造る神役
2_マツリバ正面に張る「大注連縄」を作る神役

大祭の歩み

祭りの起源は奈良時代。

なぜ、このような祭りが始まったのだろうか―。

熊野神社(和歌山)から神様を勧請したのは養老2(西暦718)年のこと。理由は「蝦夷征討のため」と伝えられている。
しかし、年代や理由に矛盾があり、明確ではない。

神社ができて10年ほど経ったころ、人々は「祭り」という形で、神様の到来を再現することにした。
その理由は定かではないが、以来、今日まで1300年もの間、地域の伝統行事として受け継がれてきた。

「神輿綱掛け」をする神役
「神輿綱掛け」をする神役

代々世襲で受け継ぐ役割


お仮宮の前で行われる安全祈願と「馬場祓い」

祭りを仕切る主催者がいない―

同大祭の特徴である。

神社が仕切るわけでなければ、中心となる主催者がいるわけでもない。
自ら主体的に集まった参加者が、それぞれ与えられた役割を全うする。
祭りの準備も、神社側から指示はなく、「神役(じんやく)」と呼ばれる重要な役どころの人々が、それぞれ受け継いできたことを実行している。

神前に潮をささげる「御塩献納役(おしおけんのうやく)」は、海岸での潮水の献上を再現する。現在もその子孫といわれる人がこの役を務める。
お粥(かゆ)を作って献納する「粥献司役(かゆけんじやく)」は、神輿を運ぶ途中でお粥をささげたことを再現する。これも子孫が代々受け継いできたことだ。

夜明け前、ご神体を乗せた神輿が神社を出発。「陸尺(ろくしゃく)」と呼ばれる神輿の担ぎ手もまた、世襲で受け継がれてきた。
神輿は途中、17頭の馬から出迎えを受ける。「荒馬先陣(あらうませんじん)」だ。これも長い間、世襲で受け継がれてきた。

神社が建つまでの間、神様を安置する「仮宮」を建てたことにならい、ふもとの広場には仮宮が建てられる。
必ず同地区の人々が受け持つことになっている。やがて新宮が建てられ、本宮、新宮、二つの神輿の先着争いが始まる。
江戸時代には、これに「袰先陣(ほろせんじん)」と呼ばれる大名行列も加わった。

こうした「神役(じんやく)」は、おおむね同じ家系の人々が世襲で受け継いできた。
紀伊(きい)の国から移り住んだ人々の子孫も少なくない。
神様到来がうるう年の翌年だったことから、祭りの開催は「旧暦うるう年の翌年」に決まった。

明治、大正、昭和と、祭りの盛り上がりは加速した。
昭和の記録映像にも、折壁駅に到着した蒸気機関車から大勢の人が降りてくる様子などが映し出されている。

古くから伝わる本来の姿を、そのまま再現する祭りは極めてめずらしく、伝統の祭りは85年、国の重要無形民俗文化財に指定された。

1堂々とした「大注連縄」 2折壁町内を練り歩く「荒馬先陣」と「袰祭り」 3折壁町内を練り歩く「荒馬先陣」と「袰祭り」

1_堂々とした「大注連縄」
2_3_折壁町内を練り歩く「荒馬先陣」と「袰祭り」

4殿様に扮した馬上の男児 5武者人形を飾った山車の袰祭り 6マツリバで「馬場めぐり」をする大名行列

7_殿様に扮した馬上の男児
6_武者人形を飾った山車の袰祭り
5_マツリバで「馬場めぐり」をする大名行列

7気合いとともにしめ縄を断ち切る「御先祓い」 8出立する本宮神輿。山麓のお仮宮を目指す

7_気合いとともにしめ縄を断ち切る「御先祓い」
8_出立する本宮神輿。山麓のお仮宮を目指す 

 

 

 広報いちのせき「I-Style」 平成25年12月15日号