令和7年度施政方針
1.はじめに
第二次世界大戦、そして太平洋戦争が終わり80年となります。
この間、社会は成熟し、さらにデジタルをはじめとする科学技術の進歩によって、人々の暮らしは大きく変化してきました。
また、地球温暖化は進行を続け、世界は急激な気候変動に直面しています。
海外では、自己ファーストの論理が政治的不安定を招き、国家間や民族間の対立は先鋭化し、国際協調の枠組みが揺らぎ始めています。
国内では、コロナ禍の失われた日常から抜け出し、また、長く続いたゼロ金利やマイナス成長の時代から金利のある時代へと転換していく新たな動きの中にあります。
歴史は、多くのことを教えてくれます。
しかし、これから起きることを正確に見通すことがなかなか困難な時代となりました。
このような認識のもと、当市にありましては、令和7年度においても、
・最大で最優先の課題である人口減少への対処と、
・多様化する市民ニーズへの的確な対応を図り、
・さらなる市勢の発展に結び付けていく、
このことに集中し、施策を進めてまいります。
2.しごと・ひと・まちの推進
人口減少は今後も更に加速するものと見込んでいます。
「人口が減る」ことによるダメージを少なくし、地域の活力を高めていくため、次の4つのまちの姿を描き、その実現に向けて取り組んでまいりたいと考えております。
(1) しごと・ひと・まちの施策により目指すまちの姿
● 若者や女性が活躍するまち
若者や女性が、
・夢と希望を持ち、多くのことに挑戦できるまち、そして、その挑戦を受け入れ、応援するまち
・仕事と子育てを両立できるまち
・若者や女性の視点、アイデアが生かされ、その強みや活力が発揮され、活躍できる場を提供するまち
と考えています。
● 今住んでいる土地に住み続けることができるまち
・しごとの場が近くにあるまち
・安心して子育てができるまち
・医療や福祉、買い物など日常生活に必要な機能がそろっているまち
・地域づくり活動が盛んなまち
・市役所に行かなくても用事が済むまち
・市民が愛着を感じるまち
・災害に強く安全安心なまち
と考えています。
● 一関に戻ってきたくなるまち
・仕事の種類が多く、また、経験を生かすことができる仕事、ライフスタイルに応じた仕事が選択できるまち
・移住定住しやすいまち
・安心して子育てができるまち
・医療や福祉、買い物など日常生活に必要な機能がそろっているまち
・市民一人ひとりが一関というまちを知り、語ることができるまち
と考えています。
● 外国人に選ばれるまち
・暮らしや仕事で、不便を感じないまち
・夢と希望を持ち、多くのことに挑戦できるまち、そして、その挑戦を受け入れ、応援するまち
・このまちでの暮らしを楽しめるまち
・さらに、一関で暮らす方がこのまちを海外に発信し、海外で暮らしている方にも一関を知っていただけるまち
・海外との交流が盛んなまち
と考えています。
4つの目指すまちの姿を実現するため、各施策を「しごと」、「ひと」、「まち」の視点から、着実に実行してまいります。
(2) 働く場を増やす 稼ぐ力を高める(しごとづくり)
平成24年に東京からUターンし、現在は磐乃井酒造で専務取締役、杜氏、営業の一人三役を務めている佐藤竜矢さんの夢は、「磐乃井を地元の酒として、日本全国、世界の方に飲んでいただくこと。それが岩手一関を知るきっかけになってくれればうれしい」とのことです。
佐藤さんのように、若者が一関に戻り、夢に向かってチャレンジできるよう、
・仕事の種類、働き方の多様性、働く場所の数を増やす取組
・稼ぐ力を高める取組
を進めてまいります。
■キャリア教育の推進や就職ガイダンスの実施などにより、若者が地元の企業を理解する取組を進めてまいります。
■地域の特性や課題を捉えたビジネスの創出を促進するとともに、実現可能で持続的なビジネスを展開しようとする様々な人の起業を支援してまいります。
■一関工業高等専門学校とのスタートアップ共同宣言に基づき、スタートアップ企業の創出、地域企業との連携を促進してまいります。
■インターンシップを通じた外国人材の採用や、外国籍就労者が働きやすい職場・生活環境づくりに取り組む事業所を支援してまいります。
■訪日リピーターの多い台湾市場に向けてプロモーションを実施し、農産物等の販路開拓やインバウンド消費の拡大により、地域経済の活性化を図ってまいります。
■市内企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)への取組や社員寮の整備など、働く環境を向上させる取組を支援してまいります。
■集落営農の活性化に連携して取り組む組織を支援するとともに、モデルとなる取組を発信し、生業としての農業を促進してまいります。
■オーガニックビレッジ宣言に基づき、有機農業の産地づくりに向けた取組を支援してまいります。
(3) 人が輝く 人を育てる(ひとづくり)
一関で家族と暮らし、1月に市内に食料品店を開いたベトナム出身のホアン・ティ・クインさんの夢は、「大好きな日本でずっと暮らし、ベトナムの人々のコミュニティーの場でもあるこの店を大きくしたい」とのことです。
クインさんのように、外国籍の方も日本人と同じように暮らし、夢に向かってチャレンジできるよう、
・若者の地元定着への取組
・子育て支援
・外国人市民等への支援
・健康長寿への取組
・多様性を認め、受け入れ、尊重するダイバーシティ&インクルージョンの意識の醸成や社会的な不平等を無くすノーマライゼーションの取組
を進めてまいります。
● 若者の地元定着の取組
■高校生への講話などを通じて、若者が地元を理解し、地元定着を促進する取組を進めてまいります。
■学校法人や事業者が行う学生寮整備への支援や、市内に通学する生徒の下宿等の家賃を支援してまいります。
■市内の事業所に就職し、市内に居住する新規高卒者を応援するとともに、市内の高等教育機関を卒業後、市内で勤務する若者の奨学金の返還を支援してまいります。
● 子育て支援の取組
■妊婦を対象とした支援給付金の支給や、保育施設への子育てに関する相談窓口の整備、家庭訪問による子育ての相談や支援など、妊娠期から切れ目のない支援を行ってまいります。
■家庭や学校以外の居場所となる第三の居場所の設置・運営を支援し、こどもとその保護者をサポートしてまいります。
■こども誰でも通園制度を継続するとともに、家庭的保育事業所においては親子通園にも取り組んでまいります。
● 外国人市民等の支援の取組
■外国籍就労者と仕事や生活について意見交換を行い、暮らしやすい職場づくりや生活環境づくりに取り組んでまいります。
■多文化共生の取組を通じて、外国人市民等との相互理解の促進を図ってまいります。
● 健康長寿の取組
■高齢になっても住み慣れた地域で安心して暮らし続けられるよう、24時間体制で電話相談に対応する仕組みを構築するなど、見守りの充実を図ってまいります。
■医療機関と連携し、救急医療体制の確保に努めるとともに、救急安心センター(#7119)の利用や適切な医療機関の受診の仕方に関する普及啓発を行ってまいります。
■東北大会規模以上の体育大会や芸術文化大会へ、地域代表として出場するシニア世代を支援してまいります。
● ダイバーシティ&インクルージョンの意識の醸成やノーマライゼーションの取組
■障がいのある方々が制作したアート作品の展示などを通じ、障がいの有無にかかわらず、地域、暮らし、生きがいをともに創り、高めあうことができる地域共生社会の構築を目指してまいります。
■骨髄提供を行った方や骨髄提供を行った方が勤務する事業所に対し補助金を交付し、骨髄ドナーの登録を促進してまいります。
(4) 地域・まちを元気にする(まちづくり)
東京からUターンし、平成26年に家族から引き継いだ酪農で活躍している菅原雅継さん夫妻の夢は、「酪農や子育てを楽しんでいることを知ってもらい、後継者の育成やまちづくりに結び付けていきたい」とのことです。
菅原さん夫妻のように、今いる土地に住み続けながら、夢に向かってチャレンジできるよう、
・生活に必要なまちの機能の維持
・移住・定住・交流の促進
・脱炭素社会に向けた取組
・災害に強く、安全安心なまち
の取組を進めてまいります。
● 生活に必要なまちの機能の維持の取組
■マイナンバーカードを活用し、タッチパネル操作により証明書の交付手続きを行うシステムを導入するとともに、コンビニエンスストアなどでの証明書交付を促進し、書かない・待たない・行かないデジタル窓口を推進してまいります。
■人口減少に対応した都市機能を描く、次期都市計画マスタープランと立地適正化計画の策定を進めるとともに、都市計画道路の計画路線の見直しや整備に向けた調査、検討を行ってまいります。
■中心市街地における空き店舗の利活用や新築店舗の取得を促進するため、固定資産税の軽減を検討してまいります。
■市が東北銀行から寄附を受けた、なのはなプラザ1階・2階の一部を一関商工会議所の移転先として貸し付け、まちの賑わいや魅力を創出してまいります。
■一関商工会議所の移転後、市に返還される底地を、市街地の活性化に資する事業の用地として活用するため、事業提案を募ってまいります。
■JR大船渡線の開業100周年を記念した各種イベントを開催し、沿線自治体と連携して利用促進に取り組んでまいります。
● 移住・定住・交流の促進の取組
■地域の方々が主体となって行う、こども食堂、みんなの食堂などの居場所づくりを支援してまいります。
■市民それぞれが持つ知識や技術を発揮し、活躍する場を広げるため、いちのせき名人・達人バンクを開設してまいります。
■二地域居住の促進に向けた取組や、一関市出身者、一関市にゆかりのある方々による新たなネットワークづくりを進め、関係人口の創出に取り組んでまいります。
■地域おこし協力隊制度を活用し、地域づくり人材を受け入れるとともに、着任した隊員が不安なく地域での活動や生活ができるようサポートしてまいります。
● 脱炭素社会に向けた取組
■2050年二酸化炭素排出量実質ゼロの達成に向け、公共施設に太陽光発電設備や蓄電設備を設置してまいります。
■一関地区広域行政組合が整備を予定しているエネルギー回収型一般廃棄物処理施設の余熱の農業利用について、検討を進めてまいります。
● 災害に強く、安全安心なまちの取組
■119番通報や各種災害活動に対応する消防指令システムの大規模改修を行ってまいります。
■下水道への接続に併せて行う浄化槽の撤去に対して、費用を補助してまいります。
3.総合計画の着実な推進
■国際リニアコライダー(ILC)については、平成25年8月に国内候補地が北上山地に決定してから11年が経過いたしました。
我が国の産業競争力や技術開発力、国土開発、経済安全保障などの観点から、ILCが国家プロジェクトとして取り組まれるよう、早期実現に向けた運動を加速してまいります。
■東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う放射性物質による汚染に対し、
・原木しいたけの産地再生への支援
・農林業廃棄物や学校などに埋設一時保管している除去土壌、側溝土砂の最終処分など
早期解決に向け、引き続き取り組んでいくとともに、国や最終責任者である東京電力に対し、責任を果たすよう強く求めてまいります。
■また、陸前高田市への職員派遣を継続してまいります。
以上、令和7年度の施策の方向性と新たに取り組む施策などについて申し上げました。
令和7年度は総合計画後期基本計画の最終年度であり、総合計画後期基本計画に掲げる5つのまちづくりの目標を実現する各種施策に着実に取り組んでまいります。
4.市政運営の基本
■当市では地域づくりの基本として、市民と行政の協働によるまちづくりを掲げ、地域協働体を対象として支援をしてきたところであり、引き続き地域協働体の自主的、主体的な取組を促進してまいります。
また、協働のまちづくりがより地域に根付くよう理解を深めるための啓発を行うとともに、各地域、各分野でリーダーとなる人材の育成を促進してまいります。
■これからのまちづくりを着実に推進していくためには、将来世代まで見据えた安定的な行財政運営に努めていくことが必要であります。
このため、質の高い行政サービスを持続的に提供できるよう行財政改革に引き続き取り組むとともに、民間事業者の知識や技術、資源を活用する公民連携の取組、公共施設等総合管理計画に基づいた施設保有量の適正化と長寿命化を図ってまいります。
■当市は、時事通信社がまとめた「自治体DX推進度ランキング2024」で全国6位という評価をいただきました。
一関市DX推進計画に基づき、引き続き行政手続のオンライン化の拡大に取り組み、市民の利便性向上につなげてまいります。
■平泉町と宮城県北の各市を重要なパートナーと位置付け、暮らしに必要な機能を総体として確保するとともに、より強く魅力あふれる圏域の形成を目指してまいります。
■今後においても「誰一人取り残さない」グローバル社会の形成と持続可能な地域社会の構築につながるよう、SDGsの推進に取り組んでまいります。
5.おわりに
今年で、平成17年の市町村合併から20年となります。
市町村合併の年に生まれた子どもは、今年、20歳を迎えます。
岩手県人口移動報告年報による令和6年10月1日時点の当市の人口は、10万3,959人と推計されており、平成17年の国勢調査人口13万5,722人から、20年間で23.4%減少しております。
今後も、人口減少は進んでいくものと捉えており、当市の総人口は、令和8年には10万人を割り込むことが見込まれております。
人口減少そのものを止めることは困難でありますが、人口減少による影響をできるだけ少なくし、地域の活力を高めていくことが必要です。
令和8年度を初年度とする総合計画基本計画を策定し、施策の方向性を示してまいります。
市長就任以来、この3年間で各種の施策を進めてまいりましたが、最大で最優先の仕事が人口減少への対処であることに変わりはありません。
子どもたちが夢や希望を持ち、すべての市民がこの一関に誇りと愛着を持ち、これからも住み続けられるまちをつくってまいります。
議員各位並びに市民の皆様のご理解、ご協力をお願い申し上げ、令和7年度の市政に臨む方針とさせていただきます。