平成28年度施政方針
本日ここに、第56回一関市議会定例会が開会されるに当たり、提案をいたしました議案等の説明に先立ち、今後の市政運営について、所信の一端と主要施策の概要について申し上げます。
1.はじめに
はじめに、わが国の経済状況についてでありますが、これまでの国の経済政策により、東京圏などの大都市部や一部業種においては、景気が着実に上向いている数値が示されておりますが、これに加えて、国は一億総活躍社会に向けた緊急対策を打ち出し、経済の好循環の強化を図るとしており、首都圏など特定地域だけでなく、当地域における景気の明るさが広がることに大きな期待をしているところであります。
このような中、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)については、地域経済に及ぼす影響について懸念が高まっております。政府は平成27年度補正予算において、TPP対策として3千4百億円余を計上し、「攻めの農政への転換」を促しておりますが、具体的な内容が明確に示されていないため、生産農家の不安は払拭されておらず、引き続き、国に対して要望していくとともに、今後の動向を注視していく必要があると考えております。
平成28年度は、合併から11年目を迎え、新たな総合計画の始まる年度でもあります。総合計画の将来像に掲げた「みつけよう育てよう 郷土の宝 いのち輝く一関」この実現に向けて、計画の着実な推進を図って参ります。
平成28年度予算案をはじめとする今議会に提案する議案は、当市の将来に向けて、国際リニアコライダー計画の実現や資源エネルギー循環型のまちづくりに向けた取組を確実に実施するため、また、まち・ひと・しごとの創生に向けた取組や多様な住民ニーズに的確に対応していくため、総合計画のまちづくりの目標に基づき、各施策の体系的かつ効果的な展開に向け熟考したものであります。
2.まちづくり正念場!! いちのせき創生予算
私は、市長就任以来、「中東北の拠点都市一関の形成」を政策の柱に掲げ、施策を推進して参りました。実質1年目である平成22年度から平成27年度予算まで、厳しい財政状況の中、可能な限り積極的な予算編成をしてきたところであります。
これらに基づき、東日本大震災からの復旧を復興に結び付ける取組や市独自の経済対策事業等を実施し、地域経済の活性化を強力に進めてきたことにより、私が目指す地域像の実現に向けて、概ね順調に推移してきているものと認識しております。
こうした中、平成28年度予算については、直面する市政課題の解決に向けて、ILCを一関発展の基軸と位置付け、子育て世代への支援、健康長寿への取組、さらには資源エネルギー循環型のまちづくりに向けた取組を重視した予算編成を行ったところであり、その総額を632億7千3百万円としたところであります。
3.将来に向けたまちづくり
(1) ILCを基軸としたまちづくり
私は、これまで、ILCの実現に向けて、その意義と価値や教育や文化、産業など多様な分野における地域への波及効果について、広く市民の皆さんに理解を深めていただけるよう、さまざまな機会を活用して、積極的に取り組んで参りました。
ILCは、世界で一つだけ建設される世界最先端の研究施設であり、東北そして日本の未来を大きく変える可能性を秘めた夢のあるプロジェクトであると同時に、日本が国際貢献できる数少ないプロジェクトであります。また、世界各国の多くの研究者がこの地で研究を重ねることになり、教育や文化、産業をはじめとするさまざまな分野に、長期にわたって波及効果が及ぶことが期待されるなど、ILCの実現は、当市のみならず、岩手県そして東北の地域活性化の起爆剤になり得るプロジェクトであると認識しております。
日本の研究者の間で、このプロジェクトの構想がスタートしたのが1980年代の半ばでありました。それから30年が経過して、日本の研究者の実績が評価され、ILCの技術設計書が完成するに至り、それとほぼ同時に北上高地が国内候補地に決定したところであります。
今後、ILCの建設が行われ、これから先、実験の成果が出るまでにさらに30年を要する息の長いプロジェクトであります。
一方で、スイスのセルンにおいては、実験開始から30年、さらに第2ステージの30年を経て、現在61年目の第3ステージに入っており、素粒子物理のプロジェクトは長い期間を必要とする実験研究プロジェクトであることから、ILCにおいても長期的な視点に立った受け入れ態勢の整備に取り組んでいかなければならないと考えているところであります。
そのため、政府に対して、早期に誘致を表明するよう、関係自治体、関係団体と共に要望していくとともに、これまで取り組んできた事業に加えて、次の時代を担っていく世代を対象とした事業にも力を入れたいと考えております。平成28年度において新たに中学生を対象としたILC特別授業を実施するなど、ILCの意義と価値について、一層の普及啓発に取り組んで参ります。
また、ILCを見据えたまちづくりについても、関係機関・団体と連携を図りながら、世界中から訪れる研究者等とその家族が安心して生活できる、受け入れ環境の整備に向けて検討を行うとともに、学術研究都市構想の策定に向けた取組を進めます。
(2) 資源エネルギー循環型のまちづくり
ILCを基軸としたまちづくりと合わせ、資源やエネルギーが循環するまち、いわゆる「エネルギーの地産地消」を目指した取組もこれからの一関発展のためには欠かせない取組であります。
私は、「使用済小型家電の回収金属で東京オリンピックのメダルを」と関係機関に提案をしてきたところでありますが、去る1月25日、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の中間報告に、この提案の趣旨を踏まえた内容が盛り込まれたところであります。
これを機に、小型家電リサイクルや資源集団回収事業などの活動を、市民運動としてさらに展開し、環境意識の高揚を図るとともに、不法投棄やポイ捨ての防止を図るなど、住みよい快適なまちづくりを推進して参ります。また、家庭から出される一般廃棄物を市民全体の課題と捉え、廃棄物の減量化にも取り組みます。
昨年10月に、エネルギー資源の実態把握や廃棄物の減量化、地域内で生み出されたエネルギーを活用した施設のあり方などについての方向性を示した資源・エネルギー循環型まちづくりビジョンを取りまとめたところであります。具体的な推進策については、平成28年度にアクションプランを策定することとしており、先進的な複合施設のあり方についての検討をはじめ、廃棄物の資源化とエネルギーの活用に向けた取組やバイオマス産業都市構想の実現に向けた取組を推進して参ります。
4.最優先で取り組むべき施策
それでは、平成28年度に最優先で取り組む施策として、大きく3点について申し上げます。
(1) まち・ひと・しごとの創生
まず、一つ目は、まち・ひと・しごとの創生、いわゆる人口減少社会への対応であります。
出生率の低下が進行し、転出超過が続く中、長期的な人口減少の流れに歯止めをかけることは容易なことではありません。
人口減少社会の中にあって、市民一人ひとりが夢や希望を持ち、豊かな生活を安心して営むことができる「まち」を形成し、地域社会を担う個性豊かで多様な人材となる「ひと」を確保し、さらには地域における魅力ある多様な「しごと」の創出を一体的に推進していくことが重要であり、それが人口減少の抑制につながるものと考えております。
昨年実施された国勢調査の速報値によりますと、当市の人口は、平成22年の前回調査と比較するとおよそ6千人減少の、12万1,625人となっております。しかし、この人数には、沿岸津波被災地などからの避難者が含まれていることから実際の減少数はもっと多くなっていることが想定されます。
また、昨年策定した人口ビジョンでは、出生、死亡、移動の状況が現状のまま推移すると仮定した場合、25年後の平成52年には、一関市の人口は7万5千人まで減少するものと推計されますが、総合戦略に掲げた対策にしっかり取り組むことにより、人口減少のスピードを緩め、8万6千人程度に留めたいと考えております。
市勢の継続的な発展のため、引き続き人口減少の問題を最重点課題と位置付け、若者が結婚し、子どもを生み育てやすい環境づくりに向けて、最大限の努力をして参りたいと考えております。
(1) しごとづくり(雇用、人の流れの創出)
人口減少の大きな要因の一つは社会減でありまして、その中でも特に、進学や就職のため突出して転出が多くなっている若者の流出をいかにして防いでいくかが課題であります。地域から若者がいなくなることにより、地域の活力は急激に衰えていき、人口減少が一気に進むことになります。
若者を地元に定着させることが何よりも必要であり、そのためには雇用の場の確保が絶対条件となります。
しかしながら、若者の地元定着は行政のみの取組では難しいところであり、学校や家庭、そしてハローワークなどの関係機関、地域の企業や経済界、地域団体などが課題を共有し、若者を地元に定着させるため、取り組んでいかなければなりません。
また、市外から人を呼び込む移住定住の促進にも力を入れて参ります。
(2) 子育て応援(結婚、出産、子育てへの支援)
人口減少の大きな要因のもう一つは、自然減であります。
これまでも子育て支援に重点的に取り組んで参りましたが、今後もこの取組を一層強化し、子育て環境を整えて参りたいと考えております。子育て支援、キャリア教育、就職支援、地元定着支援へと、子どもの成長過程に合わせて、保健、医療、保育、教育、就職、結婚、これらの各分野が、点ではなく線でつながるよう、一連の施策をさらに推進し、切れ目のない支援をして参ります。
一関でなら子どもを生みたい、一関でなら2人目、3人目を生みたい、一関でなら子育てをしたい、そのための環境整備を進めて参りたいと思います。
(3) 地域(まち)づくり(保健福祉、健康長寿、高齢化社会への対応)
さらには、高齢化社会への対応も重要であります。
高齢になっても、健康で日常生活を送ることができるよう、健康長寿への取組に力を入れて参りたいと考えております。
私は、健康づくりは地域づくりそのものであると考えております。今後、高齢化社会が進行していく中において、新しい社会を見据えた政策を戦略的に打ち出していくことが極めて重要であると認識しております。
(2) 東日本大震災からの復旧復興
東日本大震災からの復旧復興についても、最優先で取り組まなければなりません。
東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う放射性物質による汚染対策は最重要課題であり、原発事故前の環境を取り戻すため、農林業の生産基盤の再生、側溝土砂の除去など、市民の安全安心に向けた対策に引き続き取り組んで参ります。
農林産物については、産地としての信頼をより強固なものとするため、汚染された牧草などの一時保管と処分を進めるとともに、風評被害の払拭に努めます。
原木しいたけについては、施設栽培に続き露地栽培についても出荷制限が一部解除されるなど、明るい兆しもあり、産地再生に向けた第一歩を踏み出している生産者もいることから、その取組を支援して参りたいと思います。
農林業系汚染廃棄物の処理については、一関地区広域行政組合と連携して取り組んでおり、牧草については、現在、一般廃棄物との混焼により焼却処理をしておりますが、牧草以外の農林業系汚染廃棄物については、一時保管施設での安全管理を継続するとともに、放射性物質濃度の低いほだ木や落葉層などについては、その処理方法について国や県と協議をしながら、今後のあり方について検討して参りたいと考えております。
側溝土砂については、市民の皆さんの理解と協力により地区内での一時保管が進んできておりますが、今後も、自治会等の協力を得ながら、適切な管理に努めて参ります。なお、国に対して、最終処分方法を明らかにするよう申し入れをしているところであり、早期解決に結びつくよう今後とも努力をして参ります。
東京電力に対する損害賠償請求については、引き続き、県や県市長会等と連携して、原因者としての誠実な、そして早急な対応を求めて参ります。
東日本大震災から、間もなく5年の歳月が経とうとしております。
私は、沿岸津波被災地へ派遣している職員の激励のため、被災地を訪問した折に、現地の復旧復興の状況を見て参りましたが、5年が経ってもまだ復旧がこの程度しか進んでいないのかという思いが率直な感想でありました。
沿岸津波被災地では、今もなお多くの課題を抱えており、今後もこの問題が最優先の課題であることに変わりはありません。震災前の市民生活の基盤と安全安心を取り戻すこと、沿岸津波被災地との日常生活や経済面での交流を震災前にも増して活発にすることが重要であると考えており、今後とも近助の精神のもと、職員の派遣など後方支援を継続して参ります。
また、一関地域に建設中の災害公営住宅への入居が始まりますが、引き続き、被災された方々の居住の安定を確保して参ります。
沿岸津波被災地の地域産業の再生と発展に寄与する復興支援道路について、私は、当市と陸前高田市を結ぶ国道343号及び当市と宮城県気仙沼市を結ぶ国道284号、いわゆる「横串道路」となる路線の整備が重要であると認識しております。中でも国道343号新笹ノ田トンネルの整備実現が極めて有効であると認識しているところであり、一昨年、新笹ノ田トンネルの実現のために寄せられた、9万人の署名の思いを汲み、沿岸地域の皆さんと連携して、その実現に向け強力に取り組んでいく決意であります。
(3) 協働によるまちづくりの推進
最優先で取り組むべき施策のもう一つは、協働によるまちづくりの推進であります。
協働のまちづくりは、地域の将来を築いていくためには欠かせない仕組みであります。
市民と行政が一体となって推進するとともに、市民一人ひとりが市政への関心を高め、まちづくりの当事者としての意識をもって取り組めるよう、市民との協働を基本として市政運営に当たって参ります。
現在、各地域にあっては地域協働体の設立や地域の将来構想である地域づくり計画の策定が進んできているところであり、身近な地域課題の解決や地域の特性を生かした市民主体の地域づくり活動が活発化してきております。
協働による地域づくりは、地域協働体、市民、各種団体等、それぞれの主体による役割分担のもとに、市民一人ひとりが当事者となり、地域のことを考え、その発想を自らが実践する自主自立の取組が不可欠であると考えております。
その自主自立の取組を進めるため、市民センターを、より多くの市民の参画により、地域協働を推進し、充実させていくための地域活動の拠点施設と位置付けたところであり、地域の住民が主体となった協働の取組が活性化することを期待しており、地域協働体支援事業、いちのせき元気な地域づくり事業などにより、地域づくり活動を支援して参ります。
5.重点施策:中東北の拠点都市一関の形成
次に、平成28年度の重点施策である、中東北の拠点都市一関の形成に向けた取組について、総合計画のまちづくりの目標ごとに大きく5点について申し上げます。
(1) 地域資源をみがき生かせる魅力あるまち
まず一つ目の目標は、地域資源をみがき生かせる魅力あるまちについてであります。
まちを持続的に発展させていくためには、地域を支える産業を振興し、一人ひとりが力を発揮できるよう、活躍の場を創出することが必要であります。
地域資源や地域特性を生かした事業の創出や誘致に取り組むとともに、既存産業の振興を図り、若者が地域に定着する魅力あるまちを目指して参ります。
農林業の振興については、当市の基幹産業である農業の振興と農村地域のコミュニティを維持し、発展させるため、TPP対策として打ち出されるさまざまな施策を活用し、積極的に事業を展開いたします。
農家所得の向上に向け、JAや関係機関、団体との一層の連携により、生産体制の強化や農畜産物の高付加価値化、6次産業化を進めるとともに、販路拡大などに取り組みます。
また、集落営農組織の育成や農地の集積を図り、中山間地域をはじめとする農業・農村の活性化を図ります。
一関のブランド力を高めるため、優れた観光資源と共に農畜産物を全国に売り込んでいくなど、「地産外商」の取組を展開いたします。また、首都圏などでの情報発信や販路の開拓を進め、一関ファンの拡大に努めます。
林業については、一関地方森林組合との連携を強め、地域の林業振興やバイオマス産業都市構想に基づく森林資源の活用について着実に取り組んで参ります。
工業の振興及び企業の育成については、技能、技術の習得を目指す研修の機会を設けるとともに、質の高いものづくりを支援します。また、事業誘致への積極的な取組を進めるとともに、新産業、新技術の創出支援や農商工連携などの支援に努めます。さらに、立地環境や企業の設備投資への優遇制度などの優位性をアピールし、整備中の貸し工場を含め、企業の誘致に努めます。
商業の振興については、事業資金の低利融資や利子補給、経営診断や運営相談の充実、起業支援など、工業分野も含めて、中小企業の経営合理化、効率化を促進いたします。
商店街の活性化については、空き店舗への入居支援や集客につながるイベント開催などにより、賑わいの創出と地域コミュニティの形成を図ります。
就労支援については、新規高卒者について、昨年、4年連続で100パーセント就職を達成したところでありますが、地元企業への就職をさらに増やしていく必要があり、そのためハローワークとの連携により若者の地元企業への定着に取り組むとともに、女性や若者の起業支援、女性がいきいきと働くためのキャリアアップと就業支援に努めます。
また、学生やUIJターン就職希望者等への支援として、平泉町、宮城県登米市、栗原市等との連携により、企業の専門技術者の確保を支援する事業に取り組むとともに、大学や高専等との連携によるインターンシップの取組を促進します。
観光の振興については、平泉と猊鼻渓、厳美渓などの周遊観光に向けた交通を確保するとともに、仙台圏におけるキャンペーン等に取り組みます。また、全国ご当地もちサミット、一関・平泉バルーンフェスティバルや全国地ビールフェスティバル等を通じて、当市の観光情報を全国に発信し、誘客に努めて参ります。
当市と平泉町において、観光地経営の視点に立った観光地域づくりを進めるためDMOの設立について検討するほか、広域連携推進事業に取り組みます。
(2) みんなが交流して地域が賑わう活力あるまち
二つ目の目標は、みんなが交流して地域が賑わう活力あるまちについてであります。
活力ある地域となるためには、新しい風を呼び込み、市内外で交流し、連携し、市民活動や経済活動を活性化させていかなければなりません。
人、もの、情報が行き交うための基盤整備を促進するとともに、国際化に対応した地域づくりを進め、活発な交流により活力あるまちを目指して参ります。
国・県道の整備については、災害に強い道路ネットワークの構築のため、国道4号の交通事故対策事業の促進や、復興支援道路に位置付けされている国道284号、342号及び343号の急カーブや急勾配、狭隘部の解消による道路網の強化を促進いたします。
市内の医療、消防、工業団地などの拠点を結ぶ主要な市道路線として、狐禅寺大平線、丸木舞川線等の整備を進めます。生活道路については、安全で利便性の向上につながる整備を推進いたします。
歩道の設置については、児童生徒、高齢者、車いす使用者等、全ての歩行者の安全確保と円滑な移動のため、計画的な整備を進めて参ります。
また、市街地の回遊、散策、憩いの場として歴史の小道を整備いたします。
このほか、安全安心で快適に利用できる道路環境の整備や道路インフラ、橋梁の長寿命化を図ります。
市民生活の足を確保するため、市民、運行業者、関係機関と協議しながら、持続可能なバス公共交通体系の確立を目指し、予約利用型の乗合タクシーの運行を実施するほか、負担軽減制度等の検討を進めます。
住民の利便性の向上を図るため、マイナンバーカードを利用してコンビニで住民票等を取得できるサービスを開始いたします。また、総務省の示す指針に基づき、情報セキュリティの強化を図ります。
移住定住の促進については、一関・平泉定住自立圏共生ビジョンに基づく定住施策を推進するとともに、住宅取得補助金や空き家バンクなどの制度により、新たな人材を地域で受け入れるための環境整備に取り組みます。
また、結婚支援については、男女の出会いの場づくりなど、県や隣接市町とも連携しながら支援を継続いたします。
(3) 自ら輝きながら次代の担い手を応援するまち
三つ目の目標は、自ら輝きながら次代の担い手を応援するまちについてであります。
将来にわたって誇れるまちづくりを進めるためには、家庭、地域、学校、企業、行政等が一体となり、次の世代を担う人材を育てることが必要であります。
市民一人ひとりが生涯にわたっていきいきと暮らしながら、子どもを安心して生み育てられる環境づくりに取り組んで参ります。
このため、予防接種の公費助成、中学生までの医療費無料化、幼稚園、保育所における全ての所得階層での保育料の軽減や第3子以降の無料化、所得の低い世帯への教材費、給食費等実費徴収の補足給付を継続するほか、新たに不妊治療助成の対象を一般不妊治療まで拡充し、子どもを生み育てやすい環境整備、子どもの健康増進と子育て世代の経済的負担の軽減を図ります。
また、新規の認可保育所の参入促進や、小規模保育事業所、家庭的保育事業所を増やすほか、保育士等人材バンクの活用等により保育士の確保を図り、待機児童の解消に努めます。さらに、小学生が放課後に安全に活動できる居場所を確保するため、学校の余裕教室を利用した放課後児童クラブの整備を検討いたします。
教育については、「教育に関する大綱」の実現に向けて、当市の教育の課題やあるべき姿を教育委員会と共有しながら、連携して教育の振興を図って参ります。
学校施設の整備については、千厩地域の小学校統合に向けた新校舎の建設を行うほか、東山小学校の新校舎建設に向けた用地の取得、厳美小学校のプール改修、桜町中学校のテニスコート整備等を進めます。また、一関修紅高等学校の体育館建設事業に助成を行います。
社会教育については、教育振興基本計画に定める施策の基本方向に沿って、家庭教育を支援するとともに、地域住民の協力を得ながら放課後子ども教室事業などを実施し、社会全体で子どもたちの学びを支援する取組を推進して参ります。
文化芸術の振興については、多様で活発な文化芸術活動を促進するとともに、多くの市民が優れた芸術に触れる機会の充実を図ります。
スポーツの振興については、誰もが気軽にスポーツを楽しむことができるよう、スポーツ活動の機会を提供するとともに、環境整備や、施設利用者の利便性の向上に努めます。また、各種大会や講習会等の開催により競技力の向上を目指します。
本年は、46年ぶりの国体「希望郷いわて国体」、それから、障がい者スポーツの祭典「希望郷いわて大会」が開催され、当市は、バスケットボール等の競技会場となっており、円滑な競技会の運営はもとより、それを支える運営ボランティア活動、環境美化活動等に万全を尽くして参ります。
世界文化遺産「平泉」と連携した地域づくりについては、地域住民と協働で遺跡、景観の保全に努めながら、骨寺村荘園遺跡の発掘調査及び文献研究を重点的に実施するとともに、世界文化遺産登録5周年にあたり、県、関係市町と連携しながら、拡張登録の実現に向けた取組を進めます。
(4) 郷土の恵みを未来へ引き継ぐ自然豊かなまち
四つ目の目標は、郷土の恵みを未来へ引き継ぐ自然豊かなまちについてであります。
豊かな自然は市民の心の支えであり誇りでもあります。この貴重な自然の恵みを確実に次の世代へ引き継いでいかなければなりません。
自然環境と調和した快適で住み良い生活環境の整備を進めていくとともに、省エネルギーの取組や再生可能エネルギーへの転換を推進し、循環型社会の構築に取り組んで、環境にやさしいまちを目指して参ります。
環境対策については、住宅用太陽光発電システムの設置を支援するとともに、防犯灯、商店街街路灯などのLED化を計画的に進め、新エネルギー・省エネルギーの取組を推進し、低炭素社会の実現に向けた意識啓発に努めます。
また、空家等対策の推進に関する特別措置法に基づき、空家の適正管理、利活用などの対策を推進いたします。
公園の整備については、赤荻地区への整備を進めるとともに、遊具の安全点検や更新を行って参ります。
水道事業については、簡易水道事業の給水区域を拡張するほか、浄水場の建設など施設の改修、更新事業を実施いたします。また、老朽管の更新と漏水調査を行い、有収率の向上に努めます。さらに、各地域の水道施設の一体的な管理を行うため、水道施設監視システムの統合を進めます。
公共下水道事業の管路整備を進め、公共用水域の水質保全と快適な生活環境の向上に努めます。また、水洗化率の向上に向けて、下水道等の未接続世帯へ早期の接続を呼びかけるとともに、浄化槽の設置を支援して参ります。
併せて、施設の長寿命化に向けた維持管理にも努めて参ります。
(5) みんなが安心して暮らせる笑顔あふれるまち
五つ目の目標は、みんなが安心して暮らせる笑顔あふれるまちについてであります。
誰もが健康で心豊かに自立した生活を送るためには、市民みんなが一体となって安全な環境を築き、互いに支え合い、安心して暮らせることが必要であります。
これまでの経験を踏まえ、災害に強いまちを目指すとともに、健康寿命を延ばすための取組を進め、いつまでも笑顔で暮らすことができるまちを目指して参ります。
生涯を通じて市民一人ひとりが、自ら健康づくり、地域づくりに取り組むことができるよう、健康長寿のまちへ向けた取組として、生活習慣病予防や介護予防を含めた健康づくり、こころの健康づくりを推進いたします。
地域医療については、医療・介護分野における人材の育成、確保が不可欠であります。深刻な状況にある医師確保については、新たに国保藤沢病院と市内県立病院などが取り組む総合診療専門医の養成事業を支援し、地域基幹病院の負担軽減を図るとともに、医師修学資金貸付事業を継続いたします。
介護分野においても、人材の確保、介護技術の習得、職員の定着支援などを目的に、介護人材育成事業を実施いたします。
将来にわたり、医療介護サービスが安定的に提供されるよう、新たに医療介護従事者修学資金貸付事業により、看護師・介護福祉士等医療介護専門職の育成・確保を推進します。
また、医療機関の適切な受診のあり方の周知に努めるとともに、医療機関と連携し、地域医療体制の強化を図ります。
誰もが安心して暮らしていくためには、地域での支え合いが重要であります。そのため、地域、事業者等と協働して施策を推進いたします。
高齢者の生活を支えていくためには、地域包括ケア体制の構築が必要であり、医療と介護の連携強化や高齢者世帯の見守り、相談支援体制の充実を図るとともに、認知症高齢者とその家族への支援体制を拡充いたします。高齢者が要介護状態や認知症になっても、住み慣れた地域で安心して生活ができるよう、在宅サービスの充実を図るとともに、入所待機者の解消に努めます。
また、高齢者が地域の中で生きがい、役割を持って生活できるよう、居場所づくりに取り組むとともに、シニア活動プラザの利用を促進し、社会参加や社会貢献活動を積極的に推進いたします。
障がいのある方々に対しては、基幹相談支援センターと連携を図りながら、障害福祉サービス等の提供体制の拡充に向け、取組を推進して参ります。
国民健康保険については、引き続き厳しい事業運営が見込まれておりますが、社会保障制度改革による大きな転換期を迎えているところであり、特定健康診査の推進など医療費の適正化に取り組むとともに、運営の安定化に努めて参ります。
防災のまちづくりの推進については、大規模災害に備えた訓練を実施するほか、毎年3月11日の「となりきんじょ防災会議の日」の普及や自主防災組織に対するリーダー育成などの支援を継続するとともに、地域防災のコーディネーターを養成し、自主防災組織の連携を強化いたします。
避難行動要支援者に対しては、支え合いによる避難支援や日常的な見守り活動などを促進いたします。
一関遊水地事業については、小堤及び水門の整備促進と併せて狭隘地区の治水対策を促進いたします。磐井川堤防改修事業に伴う周辺整備については、国土交通省と連携し整備を推進いたします。また、JR東北本線磐井川橋梁架け替えに向けた早期協議について、継続して要望いたします。
中小河川の治水事業については、過去の大雨災害を教訓として、関係機関と連携を図りながら対策を進めます。
土砂災害への警戒については、警戒が必要な危険箇所の点検を実施するとともに、土砂災害警戒区域等の情報や警戒避難体制の周知を図って参ります。
交通安全及び防犯については、安全に対する意識高揚を図るとともに、地域が取り組む防犯パトロール活動を支援いたします。
また、防犯灯の維持管理など、安全で住みよい地域づくりを支援いたします。
さらに、被害が急増している特殊詐欺については、被害防止に向けた広報を強化いたします。
6.市政運営の基本
以上、重点施策の中から主なものを申し上げましたが、刻々と変化する社会経済情勢に的確に対応しながら、当市の目指す中東北の拠点都市の形成に向けて、総合計画事業の着実な実施を図るとともに、人口減少や少子高齢化等の社会構造の変化に対応するべく、まち・ひと・しごと創生総合戦略に掲げた対策にしっかりと取り組んで参ります。
当市の財政見通しは、普通交付税の算定の特例、いわゆる合併算定替が、合併特例期間の経過に伴い、平成28年度から段階的に縮減されるなど、厳しい財政状況が見込まれております。このため、平成28年度を初年度とする第3次行政改革大綱及び第3次集中改革プランを推進し、市民起点に立った質の高い行政サービスを持続的に提供できるよう、行政改革を進めて参ります。
公共施設については、人口減少などによる需要の変化が想定されますことから、全ての施設を対象に、施設保有のあり方を検討し、維持管理に関する基本的な方針となる公共施設等総合管理計画の策定を進めます。
また、人口減少などの社会構造の変化に対応した施策の展開や地域の発展のためには、近隣自治体との連携した取組が欠かせないものとなっており、宮城県登米市、同じく栗原市と共通課題の解決のために連携して取り組んでいくこととしたところであります。
これまで、就労支援や相互の首長講演会、あるいは3市合同婚活パーティーなどを実施して参りましたが、今後にありましても、例えば企業誘致、観光振興など、共通認識を持って取り組んでいけるよう検討を進めているところであり、まち・ひと・しごと創生に向けた事業にも、引き続き連携して参りたいと考えております。
なお、次回の首長懇談会からは、この一関、登米、栗原の枠組に平泉町が加わることになっており、将来的には、秋田県湯沢市、東成瀬村、宮城県気仙沼市、南三陸町等との連携の可能性も探って参りたいと考えております。
東北の中央に位置するこの地域で、しっかりと連携して課題に取り組んでいくことが、これからの地域づくりのためには非常に有効な手段であると考えているところであり、県境に接する一関であればこそ可能となる施策に、積極的に取り組んで参ります。
私は、市民の皆さんの声を直接聴く機会として、市長就任以来、移動市長室を実施してきたほか、「市長へひとこと」などにより、直接市民のご意見を伺う機会を設けてきたところでありますが、引き続き、市政に対する市民の参画を進めて参りたいと考えております。
また、行政に対する市民の満足度を高めることを基本とし、職員自らも分かりやすい説明を心がけ、期待される以上のサービス、感動されるようなサービスの提供を目指してきたところでありますが、さらにそれが市民の感激へとつながるよう、行政サービスの品質を高めて参りたいと思います。
サービスの品質は、行政にとっての生命線であり、市民に対する十分な説明、分かりやすい説明は市民の心に伝わってこそ完結するものと認識しておりまして、説明品質の向上に向けて職員と一丸となって取り組んで参る所存であります。
7.おわりに
私はこれまで、長年にわたりILCの北上高地への誘致に関わって参りましたが、私にとって20年来の念願でもあるILCが、いよいよ現実のものになろうとしております。
国では、国際リニアコライダー(ILC)に関する有識者会議を設置し、ILCの日本誘致に向けた諸課題について専門的見地から検証を行っておりますが、昨年6月には、誘致に向けた課題や政府判断の時間的目安、今後取り組むべき検討課題などが具体的に示され、平成29年度末頃までには、有識者会議において政府へ検証結果の最終報告を行うとの中間とりまとめが示されたところであり、ILCの実現に向け、着実に前進が図られているものと捉えております。
政府が判断するまでのここ数年間は、非常に重要な時期であり、まさしく正念場であると認識しております。
この地方には、平泉の文化遺産という世界の財産があります。ILCが実現することにより、世界最先端の科学技術の拠点という、もう一つの世界の財産が形成されることになります。
世界から注目を浴びる、そのような地域になっていくことは間違いありません。
そのような地域像を描きながら、まちづくりを進めて参りたいと思います。
未来に向けて、志と覚悟を持って、積極果敢に挑んでいく決意でありますので、議員各位並びに市民の皆さまのご理解とご協力を心よりお願い申し上げます。
以上、今後の市政運営についての所信の一端と、施政方針について申し述べさせていただきました。